[末尾に追録追加 17.30 ][次回の予定:訂正 22日 9.00][追記 24日 1.06]
今回は、「天井」について。
天井と言っても、今では設計する方が少なくなったと思われる竿縁天井(さおぶち てんじょう)、格天井(ごう てんじょう)の解説です。
日本の建物の天井のつくりかたの特徴は、下から仕上げ材を張る、打ち付ける、というつくりでないこと。
簡単に言うと、重力に逆らわない方法を採る。
多分、「踏み天井」:床を張る→下側が天井になる、ということからの発想でしょう。
この方法は、下向きの姿勢で作業ができ、楽で安全で、確実なのです。
十七 天井
第一 天井各部の仕方
第五十六図は天井各部の仕口を示した図。
図の甲は、稲子張天井(いなご ばり てんじょう)の図。
本稲子(ほん いなご)のときは天井板の刃の部分を决り欠いて、竿縁(さお ぶち)の間ごとに幅4〜5分×深さ1分くらいの蟻型の切欠きをつくり、次の天井板の上端から、竹でつくった稲子を差し込む。
天井板が薄いときは、付稲子を使う。付稲子は、図のように、6分角×3寸程度の材に幅5〜6分深さ1分5厘の切り欠きを設け、板に膠で取付け、次の板の上端から稲子を差し込む。
図の乙は、本稲子を取付ける仕方、図の丙は、天井板の張り方を示す図。
稲子は、この部材が昆虫のいなごに似ていることから呼ばれた名前に漢字を当てたのではないでしょうか。
なお、稲子の材料は、竹にかぎりません。
図の丁は、廻縁(回縁)(まわり ぶち)の隅の部分の仕口で、目違いを設け、下端(見える部分)を留めで納める方法。丁寧な仕事では、これに枘を追加し、裏面で鼻栓を打つ。
図の戌は、平の柱に廻縁(回縁)を取付ける仕口、図の己(き)は同じく廻縁(回縁)を間仕切の隅の柱に襟輪欠きで取付けるときの仕口を示す。
平の字に「たいら」と読みが付せられていますが、この場合は「ひら」が適と思われます。
以上は、竿縁天井のつくりかたの解説です。
天井板は、相互を突き付けるのではなく、端部を重ねてゆく張り方をします:羽(刃)重ね。
木材の収縮を考慮したものと考えられます。
⇒材自体に手を加え、重ねないで済む方策が合決り(あいじゃくり)。
ここでは、羽(刃)重ねの部分の構造と、壁際に設ける廻縁(回縁)の取付けについての説明が書かれています。
ただ、この第五十六図は、分りにくい点がありますので、下記書籍から当該箇所の図を転載します。
玉置豊 次郎 監修 中原 靖夫 著「工作本位の建築の造作図集」(理工学社 1995年刊 第9版)
なお、右側の図は、「日本家屋構造」所載の上掲の図が元図のようです。
同書には、竿縁天井の構造について、更に分りやすい図がありますので、以下に転載させていただきます。
はじめに、竿縁天井の全体図。
次に稲子のいろいろ、その詳細。
次は廻縁(回縁)の取付け法。
同じく廻縁(回縁)の取付けにあたっての留意点。
柱に、何故襟輪欠きで取り付けるのか、その理由が説明されています。
次は格天井(ごう てんじょう)の構造について。
解説文が長いので、解説図を別ページに分けます。
第二 格天井
第五十七図は、折上げ格天井の格縁(ごう ぶち)の構造を示した図。
格縁および廻縁(回縁)の断面は正方形で、一辺を柱の径の1/2とする。ただし、建物が広く、柱が太い場合には、柱の径の 3.5〜4/10 とすることがある。
図の甲は、平亀の尾:平の部分の折上げの断面図を示す。
高さは、廻縁(回縁)上端より格縁4本半分上った位置を天井面とし、出は格縁4本半分を、図のように格縁の外側の位置とし、格縁の内側から水平面を若干とり、その位置から垂直線を下ろし、一方、隅から45度の線を引き、その交点を中心として円を描き、それを天井の曲面とする。
註 折上げ天井を設計したことがありません。
この部分の解説は、文だけでは意味不明のため、図を私が「勝手に」推測して訳してあります。
誤まっていたら、ご指摘下さい。
図の乙は、折上げの隅の部分:隅亀の尾の製図法を示した図。高さは平亀の尾と同じで、出はその裏目(曲尺の裏側の目:√2倍の目)の長さとなる。右側の平亀の尾の曲面をなるべく細分して点をとり、それを隅に写して作図する。
図の丙は格縁の木口:断面図。一辺を6等分して、その下角の1分分に図のような面を刻む。また子組を嵌め込むときは、その組子の大きさは、高さは幅の1/3とし、厚さは1/6とする。組子の明きすなわち内法は格縁の5/6とする。
この部分、「直訳」です。図がないのでよく分りません!
図の丁は、猿棒天井(元は猿頬天井)の(猿頬)竿縁の断面。一辺が柱の径の1/3の正方形の3/6を下端として、高さの1/2まで図のように面を取る。
この断面の形が猿の顔・頬に似ていることから猿頬と呼ぶようになり、人によっては猿棒と称したようです。
なお、竿縁の形状は、ここに紹介されている断面でなければならない、というわけではありません。
いろいろな形状があり、端的に言えば、設計者の任意です。
他の寸法なども同じです。
ただ、学習の方法として、「定型」から出発し、その定型の「意味」を会得し、その後「任意に」展開する、
という過程が大事だ、と私は思っています。
他の部材は、以下のようにつくる。
廻縁(回縁)は、その上端の裏側にあたる部分を少し斜めに下げ削り、板の矧ぎ付け(相手への密着具合)をよくする。
廻縁(回縁)の部屋内側の上端の稜線部が天井板と密着する、隙間ができにくくする工夫。
まったく平滑な面にすることは難しいが、角を出すことは簡単だし、万一、稜線が不陸でも、
容易に板に馴染むのです。稜線部に力が集中するからです。
天井板の刃の削り方には、刃の部分の厚さ1〜2分、重ね8分程度に削って重ねる方法と、板上端から下端角まで斜めに削り落す辷刃(すべり は)と呼ぶ方法があり、これは屋根の裏板や部屋内の羽目板などで使われる。
今、折上げ格天井を設計する機会は先ずないと思いますが、分りやすい折上げ天井の製図法が、
先の玉置豊 次郎 監修 中原 靖夫 著「工作本位の建築の造作図集」(理工学社)に載っていますので、
以下に転載させていただきます。つまるところ、図学の学習です。
追 録 [17.30 追加]
竿縁は小屋梁、床梁などから吊木で吊ります。その吊り方についての解説図を、「木造の詳細 2 仕上げ編」(彰国社)から転載します。
左側がいわば正統な方法です。
天井板の継目(重ね目)は吊木の列の位置になります。
吊木の寄蟻の蟻型の元は板の厚さ分引いた位置になり、板の上端の位置で横栓を打ち板を竿縁に密着させます。
次に、竿縁天井は、竿縁の割付とともに、天井板の割付が結果に反映します。
そこで、天井板の割付法を、前掲の「工作本位の建築の造作図集」から転載させていただきます。
この図は、上の図の「吊り方−2」を使っている例です。
「吊り方−2」は、いわば、竿縁を「化粧材」として扱う方法です。
本来の「竿縁」は、天井板を受けるいわば「構造材」です。
「光浄院客殿」では、どうなっているか、分るところまで調べてあらためて報告いたします。[追記 24日 1.06]
次回は、突然ひるがえって! 水盛り遣り方、地形(地業)の話になります。
これは間違いでした、その前に「出入口上などの板庇」「雨戸の戸袋」の構造の解説があります! [訂正 22日 9.00]