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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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「第Ⅳ章ー2ー1,2 園城寺光浄院 勧学院 客殿」 日本の木造建築工法の展開

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PDF「第Ⅳ章-2-1,2 園城寺 光浄院, 勧学院」A4版8頁

 

Ⅳ-2 近世の典型-2:客殿(きゃくでん)建築そして書院造・・・・方丈建築の変形

 世情が安定すると、諸寺院に客殿建築をつくる例が増えてきます。寺院内に設けられる接客を旨とする建物で、中世以来の方丈建築同様、外壁部・間仕切は壁ではなく、ほとんどが開口装置です。

 建物は、外観・形および架構法は禅宗寺院の塔頭:方丈建築に類似しますが、玄関部を本体の屋根に一体に取込むようになります(中門廊と称す)。

 しかし、最奥に構える当主に客が伺候(しこう)するという動きに対応するため、空間の利用法が方丈建築とは大きく異なる点が注目されます。すなわち、方丈建築では、建物南面に配した玄関を上り、広縁→上控の間→広縁→方丈(室中)という経路をたどる、つまり南側広縁から正面に向うのに対して、客殿では、玄関を建物側面に置き(多くは東面。玄関を示すのは階段と唐破風のみで唐突な感じがあります)、そこから控の間→次の間→上座の間(上段の間)へと建物内を横に貫通する動きを採るようになります。 

 また、多くの場合、上座の間には押板(おしいた)(床の間の前身)、違い棚が設けられます。

 このような空間内に上・下を明確に区別するつくりは、身分関係:地位の上下関係を重視する武士階級の意に合うこととなり、武家の屋敷内あるいは住居には同様のつくりの接客空間がつくられ、場合によると上座の床面を次の間よりも一段上げることも行なわれます。

 このような、いわば堅苦しい空間で行なわれる接客・面会の気分をほぐすために、後にはそれ専用の場:茶室、茶庭を別途に設けることも行なわれます。

 註 このような空間形式のつくりは、一般に書院造と呼ばれますが、武士の住居にも大きな影響を与え、明治以降は、都市に移住した旧武士階級の住居:都市住宅:にも影響が見られます。

 以下に、客殿建築・書院造の代表事例を見てゆきます。

 

1.園城寺(おんじょうじ) 光浄院(こうじょういん) 客殿 1601年(慶長6年)建立  所在:滋賀県 大津市 園城寺町

 園城寺は、天台宗の寺院、通称三井寺(みいでら)(三井の晩鐘などで有名)。

 寺内にあるこの建物は、書院造の典型、原型と言われている。

園城寺 光浄院 位置  図の〇印が光浄院  南西に伸びる水路は京都への琵琶湖疏水   国土地理院1/5万地形図より

 

配置図   西澤文隆実測図集 日本の建築と庭 より 

図の上方(北)の建物が庫裏(くり)、下方(南)が接客専用の建物 光浄院客殿。 

 

東南からの全景 手前が中門廊 右側の階段が玄関  原色日本の美術12城と書院より  

 

    

東面全景 唐破風・階段のところが玄関      日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより

 

 上段の間 日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより

 

上座の間 正面   日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより転載・編集

 

 光浄院客殿では、上座の間から広縁に飛び出した小室を上段の間と呼んでいる。この場所を書院(書斎にあたる)と言う。

 一般には上座の間を上段の間と呼び、広縁側への飛び出しは、出窓様のつくりで済ますことが多い。その場合を付書院(つけしょいん)と呼ぶ。

 

 

桁行断面図 〇印は貫  小屋貫は表示せず   *は貫ではなく化粧桁(化粧肘木上)ただし貫同様の働き

 

 

平面図 基準柱間 芯~芯6尺5寸2分  平面図・断面図共に日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより転載・編集 

 訪問者は、玄関~玄関の間(六畳)~次の間~上座の間へと進む。西側以外に壁はなく、間仕切も含め、すべて開口装置。 六畳の間を、鞘の間(さやのま)と記してある図もある。

 

 

梁行断面図 〇印は貫  *は貫ではなく化粧桁(化粧肘木上) ただし広縁部は化粧貫 いずれも貫同様の働き 

 

広縁の西端につくられた上段の間の突き出し 

 

 

 広縁東端の中門廊 板戸の左手が六畳(玄関の間:鞘の間)  写真は共に日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより

矩計図は共に日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより

 

参考 匠明(しょうめい)の示す書院造の諸寸法の決め方      伊藤要太郎 著  匠明五巻考(鹿島出版会)より

 

 匠明は、現存する江戸時代の木割書の一つ、江戸幕府に仕えた棟梁平内(へいのうち)家に伝わる1608年に書かれた書。

上図は、そのなかの主殿:殿舎の諸寸法の決め方を図示したもの。基準を柱径aとして、他の材の寸法を含め、諸寸法を決める。

      

しかし、この指示どおりの事例はない。また、この指示寸法で設計すると、異様な姿になる。実在の事例では、後出の表のような数値になっている。

 

                       写真・図は共に日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより

  

縁と室内床面との段差切り替えに設けられる材を切目長押(きりめなげし)と呼ぶ。 建具は、外側の切目長押~内法付長押間に蔀戸、内側は、敷居~内法付け長押間に明り障子を入れる。付樋端(つけひばた)。なお、この明り障子は、見込1寸強を二分し、一本の溝内で引き違いにしている。

 

参考 方丈、客殿、書院造 諸事例の柱間と柱および内法貫の寸法 

 

 

 

2.園城寺 勧学院 客殿 1600年(建長5年)建立  所在:滋賀県 大津市 園城寺町

 園城寺の学問所:教場として建てられた。三の間~天狗の間の列が客殿の役を担う。天狗の間に付書院と押板がある。

平面図 基準柱間 芯~芯6尺5寸1分   平面図・断面図・モノクロ写真は日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより

 

梁行断面図 広縁~二の間の断面 

 

 

広縁を望む 右手の突き出した部分が中門廊 書院はない    

    

東南からの全景 右手階段部が玄関           カラー写真は原色日本の美術12 城と書院より

 

中門廊から見た広縁 入隅の柱を抜いている  小壁の中段の横材は化粧貫 

 

二の間より一の間 正面  押板だけ、違い棚、付書院は設けていない  付長押の裏側に貫              

 

竜銀庵方丈など方丈建築と同じ架構法であることが分る。

 

桁行断面図 天狗間~東広縁の断面            日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより

 


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