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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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日本家屋構造の紹介−3・・・・家屋各部の名称・その1

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[各所文言補訂 6日 9.00、15.17][補注追記 11日 8.45]

今回から、「家屋構造」:建物のつくりかた:の説明になります。
なお、今回から、図版をひとまわり大きいサイズにすることにします。
左右上下に動かしてください(図の部分は一度に入るようにしてあります)。

最初は、「家屋各部の名称」、つまりいろいろな建築用語。


   標題の「第十五図 甲乙の符号」とは、第十五図の(甲)図および(乙)図に付してある符号について、の意。
図の右側に、「名称」が符号(記号)とともに列挙してあります。
ただ、いわば順不同に並べられているので、それぞれが図の何処にあたるか、直ぐには分りにくいように思われます。
そこで、断面図(原本では「切断図」)を拡大し、
〇足元まわり(「床組」部分)
〇柱・壁まわり(「軸組」部分)
〇屋根まわり(「小屋組」部分)
〇化粧・造作部分
に分け、符号の記されている部材ごとに、図に付されている符号から索引する形で、字句の注解を書くことにします。
したがって、その順番は、原本のそれとは違ってきますので、あらかじめご了承ください。
   その順番は、おおよそ、実際に建物を建てる順番になります。

字句注解では、「読み」のあとに、「日本建築辞彙(新訂)」の解説を転載します。
木造建築用語(大工用語)には、かなりの「当て字」「訛った語」、そして意味不明の語などがあります。
そこで、さらに補注として、別途解説をつけます(その文責は筆者にあります)。
説明を書くにあたっては、極力、すべての方がたに分るようにしたい、と考えています。

かなりの量になりますので、今回は「足元まわり(「床組」)に限ることにします。



〇足元まわり:床組の用語  下図の赤枠内
      
 (ヌ) 布石 ぬのいし (一)敷石を長手に据付けたる場合に、布石敷といい、
               (二)土台下に長く据付けたる石をもいう。 
        補注 布  ・・木綿が作られる以前は、麻布・褐布が普通であった。
               蚕は・・富貴の人の用いるもので、・・布衣とは身分のないものをいう。
               布衣は粗衣、・・「ほい」と読む。敷と通用する。
               →敷と通じ、しく、ひろげる、つらねる、あまねし、ゆきわたる。(「字通」による)
               「長く並べる」あるいは「続けて並べる」ことを「布」で意味しています。→布基礎

  補注追記[11日 8.45]
  この図から、(ヲ):大引の下には常に(ヌ):布石、(ト):土台があるかのように見えますが、
  そうではありません。
  正確を期すには、断面図とともに伏図:部材位置などを示した平面図:が必要になります。
  この原本の図は、あくまでも、「名称」を示すためのいわば概念図である、とご理解ください。
  図面の構成などについては、別途、まとめて載せる予定です。
        
 (ク) 沓石 くついし 柱下の石。
         補注 「くつ」は足を入れる履物のこと。
             柱の足元に設ける石であるゆえの呼称、と推察されます。
              「沓」の字には「くつ」という意味はないようです。
             字の原義は、下記のとおりですが、
             平安時代に、すでに「くつ」:足を入れる履物の意で使われていたようです。
             その謂れは分りません。

             「沓」の音(発音)は「トウ(タフ)」
             字形は[水+曰]。
             「誻(トウ)」:「水の流れるような多弁」の語と混同されている。
             →川が「とうとう」と流れる。  
             「類聚名義抄(るいじゅ みょうぎ しょう 平安期に成った漢和字書)」 
             アフ、カサナル、カサヌ、タタム、クラシ
             「字鏡抄(じ きょう しょう 院政期に成った漢和字書)」
             カサヌ、クツ、オモシ、アフ、タタム、クラシ。(以上「字通」による) 

             「礎石」(独立基礎)と同意と思われますが、整形した石の場合を特に沓石と呼んだのか?
             農家、商家などでは自然石も使われます。
             いずれにしても、木造の本体は、上に置かれているだけです。
             後掲の「日本の建物づくり−7」で、古代寺院の礎石の例を紹介(足堅めの項)。[追加 15.17]    

 (ト) 土臺 どだい (臺は台の本字) 建物の最下部なる横木(英語 Sill、独語Unterschwelle)。
        補注 土臺は「土基」とも記し、原義は「土で築いた台・基壇」。
            「図像中国建築史」では「階基」とあります。
            「階」とは、「段階を以て上がるべきもの」つまり「壇」(「字通」による)。
            古代中国建築には、日本の「土台」に相当する「木材」はなく、
            土で築いた基壇上に柱礎を据えて柱を立てています。→土基
            つまり、中国では建物を版築で築いた「壇:土台」が支えているのに対し、
            日本では、木材の横材が上部架構を承けるつくりかたを採るようになったとき、
            その横材が「建物を支えている」ことから、その横材の呼称として
            「土台」の語を転用するようになったのではないか、と推察されます。
            これは、巷間での「土台」の語の使用が、必ずしも建築用語の「土台」の意ではなく、
            「ものごとの基礎」の意で使われていることに現れているのではないでしょうか。
            中国の大平野・低地部では、地盤を整え基壇を確実につくることを重視しましたが、
            日本では、元来、地盤の悪いところに建てないのが普通で、中国伝来の基壇方式は、
            平安期には単なる「形式」になっています。
            「閑話・・・版築の基壇」参照。          

 (ハ) 柱 はしら ものを支承する為直立し居る木(英語 Post 独語 Stander )。
         補注 「主」は燭台の形。直立してその上端に蓋がある。柱は木の直立したもの。
             「楹(えい)」も柱と同義、ただし「円柱」をいう。
             「柱」は角・円のいずれにも用いる。
              以上「字通」より抜粋。
             注 英語では円柱を Colummn と記します。 
            
 (ユツ) 床か束 ゆかづか 床束上に「大引」あり。(注 普通は「床束」と記す)
         補注 「束」(そく)には「束ねる」から派生して「四本の指の一握り」の意があり、
              そこから「僅か」「少し」の意が生まれます。→束の間(つかのま)。
               「束」という呼称は「束柱」の「柱」を省略したもので、
              「床束」のほかに「小屋束」のように、柱が短い場合にに使われます。
                         
 (ヲ) 大引 おおびき 尾引(おびき)ともいう。
        地層床(ちそうゆか:地階)の「根太」を承ける横木にして束(つか)上にあり(英語 Sleeper)。
         補注 次項以下の、根太、床板、足固の項の補注参照。

 (子)=(ネ) 根太 ねだ 床板を承くる横木(英語 Bridging joist 独語 Balken 米語 Floor joist )。
           (注 片仮名の「ネ」を、この表記にすることがあります。)
         補注 「根」は、ものの足元にあるもの、の意に使われる語ですが、
             「太」に何の意をよせてあるのかは不明です。
             ネダという呼称があって、それに字を当てたのかもしれません。

 (ユイ)床板 ゆかいた 床の板(英語 Floor board 、独語 Diele )。
         補注 古代の建築では、床板は厚く(ときには3寸:9cmほど)、「大引」に直接板を載せていました。
             「大引」ではなく「床桁」と呼んでいたようです(下図)。
             「大鋸(おが)」が生まれるまで、木材を薄く加工することができず、
             木理(もくめ)の通った木材を割って使っていました。
             下に「伝法堂の床組分解図」を転載します。
          
               この図は「奈良六大寺大観」からの転載です。

次は縁側と主屋の境の柱(記号ハ)の下部
 (ア) 足堅め あしがため 足固め 脚固。床下に於て柱間に取付けたる丈夫なる横木をいう。
                  普通「足堅」と書く(現在は「足固」が一般的)。
         補注 この材は、柱と柱の間に組み込まれた「大引」の働きが
             ヒントになって使われるようなったのではないか、と推察しています。
            これについては、下記で触れています。
            「再検・日本の建物づくり−7」

次は主屋右側の柱の下部
 (ヂヌ)地貫 ぢぬき 建築辞彙には項目なし。最下部に設ける「貫」。
        (註 原本のデヌは、印字の欠け、地「質」は、「貫」の誤植です)。
         補注 「貫」については「柱・壁まわり(軸組)」で触れます。

 (子カ)=(ネカ) 根太掛 ねだかけ 根太の端を承くる横木。
         補注 図の縁側のように、大引を設けずに根太を掛ける場合に設けられます。
             反対側は、(ヱカ)と符号の付いた「縁框(えんかまち)」に取付いています。

 (ダキ)抱き束 だきづか 「建築辞彙」には解説なし。
               根太掛を承けるために柱に抱かせて設ける束柱。
         補注 この図の場合、「足固」材に「根太」型を彫る方法も可能です。
             この位置に「足固」を設けず「貫」を設ける場合には、
             柱に欠き込みを設け、根太を取付けることもできます(釘打ち併用)。

 (ヱ)縁板 えんいた 縁側の板をいう。
         補注 この図の場合、縁板=床板は、縁の長手に添って張られます。
             そのような場合を、特に「榑縁(くれえん)」と呼んでいます。
             「榑」:ふ 榑桑(ふそう)、神木なり。日出づるところなり。扶桑ともいう。
             たるき、まるた、くれ。(「字通」による)
             「くれ」:山出しの板材。平安時代の規格では長さ12尺、幅6寸、厚さ4寸。くれき。(「広辞苑」)
             これらの意から、なぜ「くれえん」になるのか、よく分りません。
             「長い」ということからでしょうか?
             「榑縁」は、薄い板材が加工できるようになってから現れますから、
             上記の「くれ」を何枚かに割った板を張ったからなのかもしれません。
             なお、当初の「縁」は、長さに直交して厚めの板を張るのが普通でした。 

 (ヱカ) 縁框 えんかまち 縁束の面よりも突出せしめて、束に取付けたる横木なり。
         補注 この図の場合は、「框」上に雨戸用の溝(一筋溝:ひとすじみぞ)を彫ることを意図しています。
            框(かまち)
            建具(戸、障子など)の四周の枠にあたる部分や、仕上げの端部を納めるための部分を言います。
            例:玄関などの土間部分に面する床の端部に設ける「上り框(あがりかまち)」。
            「縁框」に根太を取付ける場合は、根太型に彫込みを設け、落し込みます。

 (シ)敷居 しきい 〇化粧・造作部分のときに、「鴨居」とともに触れます。

 (トカ)床コ框 とこがまち 「床框」 〇化粧・造作部分のときに触れます。

 (ヂブ)地袋 ぢぶくろ これも〇化粧・造作部分のときに触れます。 
                                          足元まわり(床組部分)了             

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