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The problem of low ground-floor rooms in storeyed ends
初期の木造二階建て建屋は、二階を設けた場合、地上階の天井が低くなり使いにくくなるのが欠点で、15世紀末になると、人びとの間に、それを改良しようという動きが現れてくる。fig60(下図) の STAPLEHURST に在る COPPWILLIAMは、片側だけが sisle 形式の hallと、同時代に造られた二階建ての付属屋からなっているが、いずれも1370~71年の建設とされている。この建物には、当初の屋根の形が存在せず、また他の付属屋に係る何の痕跡も遺っておらず、しかも煉瓦でくるまれている。その当初の hall と現存の二階建て建屋の階下の天井高は、僅か 1.7m≒ 5.5ft(1ft=0.348m)である。しかし、付属屋の天井高は、当初の1.3m:4ftよりも高くされているように見受けられる。そうだとすると、付属屋の地上階は、当初は、居住用としてではなく倉庫・物置として使われていたのではなかろうか。またこの建屋の上階は、前面にはね出しているが、多分側面も同様であったと思われるから、新しく煉瓦を造り、その壁で床根太を承ける方策が採られる以前は、全面の建て替え以外に階下の天井を高くする方策はなかっただろう。
註 煉瓦壁を新設したのは、使いやすい二階建てにするためであった、という意と解します。
このCOPPWILLIAMの事例は、初期の二階建木造家屋では、地上階の天井はきわめて低く、部屋として使うのではなく、単なる床下と考えられていた、ということを示している。もっとも、1.3mという天井の低さは、この地域で見付かった事例の中で唯一の例である。しかし、同様に階下の天井の低い事例が、OXFORDSHIRE、ASTON TIRROLD の The COTTAGE である。この建物は年輪時代測定法で13世紀後期の建設と比定されている。ケント地域で、14世紀後期以前に建てられた木造の付属棟が一つも遺っていないのも、いずれもこのような造りだったからと考えられる。現存する中世後期の家屋の地上階の天井高は 1.5~1.7mの例が多いが、いずれも、後になって改築されたものである。これは、fig57、fig58 のLYDD の RYPE COTTAGE や WESTBERE の ASHBY COTTAGE など貧しい下層の人びとの建物(いずれも当初の上階部分は改造で遺っていない)だけではなく、SMARDEN の The FLEET HOUSE やfig61 の EAST SUTTON の DIVERS FARMHOUSE など上層の事例に於いても見られる。これらは、全面にはね出しのある WEALDEN 地方の建物だが、きわめて低い地上階に固執している。The FLEET HOUSE では、、木造の壁をそのままで天井を高くすることはさほど難しくはないにもかかわらず、はねだしのない面の地上階の天井は、約1.5mという最低の高さである。その一方、DIVERS FARMHOUSE は、当初は前面と側面の一方にはねだしのあるWEALDEN 地方特有の建物 だが、その地上階の天井は 1.7mしかなく、この場合は、17世紀に側壁を煉瓦造に改造するまでは高さを高くすることはできなかった。
つまり、二階の跳ね出しがあり、階下の天井の高さがきわめて低い木造建物の建物の場合には、側壁を煉瓦に造り替える以前は、天井を高くすることは容易ではなく、使い難さから全面的に取り壊されたり建て替えられたりされることが多かったのではなかろうか。
この節 了
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長くなりましたので、先回予告した The implications of partial survival の節は次回にまわすことにいたします。
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読後の筆者の感想
日本でも木造架構の建物を煉瓦壁でくるむ工法があります。いわゆる「木骨煉瓦造」です。
日本の木骨煉瓦造では、二階床を造る場合、根太は木造の梁桁材に架け、煉瓦壁で承けることはしません。煉瓦はあくまでも充填材なのです。
木造の二階床を煉瓦壁で承けるのは煉瓦造、石造、いわゆる組積造の場合です。その場合、根太を承ける台になる木材:枕木、敷桁をあらかじめ煉瓦壁に
設置するのが普通です。
そのあたりの図解を以前の記事から再掲します。
イギリスの場合、二階の木造床を、どのようにして煉瓦壁で承けているのかは、図がないので詳しくは分かりませんが、おそらく、上図の「組積造」と同じではな
いかと思います。
木骨式もできるように思えるのですが、多分、組積造:石造の「伝統」、「組積造・石造は木造よりも優れる」という意識が根強いからではないでしょうか。
あるいは、材料:広葉樹ゆえに、細工がしづらかったか?