[文言追加 8日9.30][文言更改追加 8日9.50]
「土蔵」の紹介の項で、土蔵の扉:塗込め木柄戸の説明が足りなかったように思いましたので、補足します。
扉の図だけ下に再掲します。
解説文中に「・・・其の釣り込み方は戸の開閉を容易ならしむる為に上の方を三分位垂直より内方に釣り込むべし。・・・」とあります。何故でしょうか。
普通、蝶番:肘金物、ヒンジの取付け際しては、上下の蝶番の軸が垂直線上に揃うことに注意します。そうしないと軋む、開閉がスムーズにならないからです。
日曜大工で、開き戸を釣り込むときに一番悩むことです。
ところが、土蔵の扉のように扉自体が重いとき、あるいは間口が広い開き戸のときは、通常の釣り込みでは、扉の重さゆえに、上方の蝶番に横向きの力が掛かり、そのために軋みが発生し、スムーズに動かなくなる事態が起きます。
しかし、解説文にあるように、上方の開閉軸を多少でも内側:取付け枠側に寄せると、軸にかかる横向きの力は、僅かではありますが小さくなり、その分、重い扉の開閉もスムーズになるはずです。この解説は、この方策を示している、と考えてよいでしょう。
また、図のように、この扉には筋違(すじかい)が入れてあります。
日本の木製の建具には図のような斜め材:筋違を入れること、しかも、それが外から見えるということは、まずありません。
土で塗込めて見えなくなるので筋違が入れてあるのです。そこには入れなければならない理由があるはずです。
土蔵の扉にはなぜ筋違が必要なのか?
現在の木造軸組工法:通称《在来工法》を「見慣れた」目には、この筋違は、扉の自重:つまり土塗の重さで、框のつくる長方形が変形しないようにするための材だ、と見えるでしょう。
しかし、もしも、変形防止のそのための材であるのならば、筋違の「向き」を変えてもよい、斜めに材が入っていればよい、つまり、上図で左上から右下に向けて斜めに入れてもよいことになります。はたしてそれでよいでしょうか?
西欧の木製建具では、框に斜め材:筋違を入れることは、しかも外からも見せることも、珍しいことではありません。
その一例として、ドイツの例を下に載せます。
Garagentor ガレージの入口の戸です。Rahmentor mit Strebe と呼んでいるようです。ドイツ語が難しくて、日本語にできず恐縮ですが、Rahmen は枠、框の意、そして strebe とは、「支え」というような意のようです。框を支える斜め材:筋違を指しているのではないでしょうか。したがって、Rahmentor mit Strebe とは、「筋違の入った框戸」、ということでしょう。
このように、間口の広く自重が重くなる開き戸にstrebe:筋違が多用されているようです(他の事例も後掲)。
ここに例示した Garagentor は、Ulrich Reitmayer 著“HoltztÜren Holztore”( Julius Hoffmann Verlag 1970年刊)からの抜粋転載です。
書名・表題を日本語に直訳すれば、「木枠・木製扉」かな・・。[直訳文言追加 8日9.30]
この図でも、筋違の向きは、前掲の土蔵の木柄戸と同じです。
図の下の表側の立面図に、框と筋違、それに金物、ヒンジ:肘金・肘壷に相当:が点線で描かれていますが、その「姿」から、筋違がいかなる役割を担っているか、が読み取れると思います(前掲の「日本家屋構造」の木柄戸の図から読み取るのは難しい・・・)。
註 「日本家屋構造」は、一般的な事例の紹介に徹している、つまり、「初心者」は、「先例」の「形」を学ぶことから始めよ、と考えているように思えます。
「理・そのわけ・謂れ」については、初めに触れない。「花伝書」もそうです。たしかにこれも一つの「教育法」です。
ただ、「花伝書」では、「形」の「習得」から入っても、「その形の理・謂れ」を「修得」できない者は、先に進むな、と言っていたように思います。
しかし、「形の習得」をもって「修得」したと誤解する場合が多くなる・・・・。
一方、このドイツの書は、図および説明を全て「理」に即して示すことに徹しています。ゆえに読者は、常に「形の謂れ」を考えなければならないのです。
[文言更改追加 8日9.50]
この立面図の向って右側の扉で考えてみます。
このような向きに筋違が入っていると、扉の重さは、かなりの分が筋違に沿って左上から右下に向う力に変ります。つまり、下側のヒンジ:肘金物に重さが集中して掛かることになります。その部分の框の補強金物・プレートの形は、この力の流れを予測したものと考えられます。
一方、扉左上部の縦框・上横框の仕口部は、この右下に向う力によって引っ張られることになります。その結果、この右下方に引っ張る力が、上部横框を伝わる右横向きの力に変ります。右横向きの力、それは上部のヒンジ:肘金物を押す方向の力です。つまり、この向きに筋違を入れることによって、通常、扉の重さで生じる上部ヒンジを引き抜こうとする力が、その分低減することになるのです。
ということは、もしも、筋違の向きが逆だとすると、上部ヒンジを引き抜く力は、逆に大きくなってしまうことになるはずです。
すなわち、扉を安定的に保持・開閉するという目的を達するには、筋違の向きはこの向きでなければならない、筋違が入れてありさえすればよいということではない、ということ、筋違の向きが肝心だということ、を示しているのです。
このあたりの理屈は、木造軸組工法で、筋違の入れ方・向きを間違えると架構の破壊に至ることがあるのとまったく同じではないでしょうか。
《在来工法》の《筋違理論・耐力壁理論》の「盲目的援用の危うさ・難しさ」を示唆していると言えるかも・・・。
なお、このような「知恵」は、洋の東西を問わず、いずれも、
「力学的理解:机上の理解から生まれたのではなく、現場での幾多の経験の積み重ねで培われた「知恵」であることを知るべきでしょう。
現場では、「理」が「体感として」理解されるからです。実は、これが「学」の根源のはずなのです。[文言更改追加 8日9.50]
また、Rahmentor mit Strebe には、下図のようないろいろなタイプがあるようです。同書からScheunentor 納屋・穀物倉の入口戸 を転載します。
各図とも、左側が表側、右が内側の立面図だと思われます。
筋違の向きに留意してご覧ください。
なお、先ほどのドイツの事例:Garagentorの詳細は下図になります。
木ネジ1本の取付ける位置についてまで、員数だけ打ってあればいい、というのではない「理に応じた細心の注意」が払われているようです。「理」が「体感として」理解されているからです。
これとは逆に、机上の《理解》から生まれたのが、ホールダウン金物などの日本の補強金物ではないか、と私は考えています。[文言更改追加 8日9.50]
この本には姉妹篇に“Holzfenster”があります。機会があったら、紹介したいと思っています(外開きの鎧戸+外開きのガラス戸からなる窓で、中から鎧戸だけ開け閉めすることのできる窓!、などというのがあったように記憶してます)。
「土蔵」の紹介の項で、土蔵の扉:塗込め木柄戸の説明が足りなかったように思いましたので、補足します。
扉の図だけ下に再掲します。
解説文中に「・・・其の釣り込み方は戸の開閉を容易ならしむる為に上の方を三分位垂直より内方に釣り込むべし。・・・」とあります。何故でしょうか。
普通、蝶番:肘金物、ヒンジの取付け際しては、上下の蝶番の軸が垂直線上に揃うことに注意します。そうしないと軋む、開閉がスムーズにならないからです。
日曜大工で、開き戸を釣り込むときに一番悩むことです。
ところが、土蔵の扉のように扉自体が重いとき、あるいは間口が広い開き戸のときは、通常の釣り込みでは、扉の重さゆえに、上方の蝶番に横向きの力が掛かり、そのために軋みが発生し、スムーズに動かなくなる事態が起きます。
しかし、解説文にあるように、上方の開閉軸を多少でも内側:取付け枠側に寄せると、軸にかかる横向きの力は、僅かではありますが小さくなり、その分、重い扉の開閉もスムーズになるはずです。この解説は、この方策を示している、と考えてよいでしょう。
また、図のように、この扉には筋違(すじかい)が入れてあります。
日本の木製の建具には図のような斜め材:筋違を入れること、しかも、それが外から見えるということは、まずありません。
土で塗込めて見えなくなるので筋違が入れてあるのです。そこには入れなければならない理由があるはずです。
土蔵の扉にはなぜ筋違が必要なのか?
現在の木造軸組工法:通称《在来工法》を「見慣れた」目には、この筋違は、扉の自重:つまり土塗の重さで、框のつくる長方形が変形しないようにするための材だ、と見えるでしょう。
しかし、もしも、変形防止のそのための材であるのならば、筋違の「向き」を変えてもよい、斜めに材が入っていればよい、つまり、上図で左上から右下に向けて斜めに入れてもよいことになります。はたしてそれでよいでしょうか?
西欧の木製建具では、框に斜め材:筋違を入れることは、しかも外からも見せることも、珍しいことではありません。
その一例として、ドイツの例を下に載せます。
Garagentor ガレージの入口の戸です。Rahmentor mit Strebe と呼んでいるようです。ドイツ語が難しくて、日本語にできず恐縮ですが、Rahmen は枠、框の意、そして strebe とは、「支え」というような意のようです。框を支える斜め材:筋違を指しているのではないでしょうか。したがって、Rahmentor mit Strebe とは、「筋違の入った框戸」、ということでしょう。
このように、間口の広く自重が重くなる開き戸にstrebe:筋違が多用されているようです(他の事例も後掲)。
ここに例示した Garagentor は、Ulrich Reitmayer 著“HoltztÜren Holztore”( Julius Hoffmann Verlag 1970年刊)からの抜粋転載です。
書名・表題を日本語に直訳すれば、「木枠・木製扉」かな・・。[直訳文言追加 8日9.30]
この図でも、筋違の向きは、前掲の土蔵の木柄戸と同じです。
図の下の表側の立面図に、框と筋違、それに金物、ヒンジ:肘金・肘壷に相当:が点線で描かれていますが、その「姿」から、筋違がいかなる役割を担っているか、が読み取れると思います(前掲の「日本家屋構造」の木柄戸の図から読み取るのは難しい・・・)。
註 「日本家屋構造」は、一般的な事例の紹介に徹している、つまり、「初心者」は、「先例」の「形」を学ぶことから始めよ、と考えているように思えます。
「理・そのわけ・謂れ」については、初めに触れない。「花伝書」もそうです。たしかにこれも一つの「教育法」です。
ただ、「花伝書」では、「形」の「習得」から入っても、「その形の理・謂れ」を「修得」できない者は、先に進むな、と言っていたように思います。
しかし、「形の習得」をもって「修得」したと誤解する場合が多くなる・・・・。
一方、このドイツの書は、図および説明を全て「理」に即して示すことに徹しています。ゆえに読者は、常に「形の謂れ」を考えなければならないのです。
[文言更改追加 8日9.50]
この立面図の向って右側の扉で考えてみます。
このような向きに筋違が入っていると、扉の重さは、かなりの分が筋違に沿って左上から右下に向う力に変ります。つまり、下側のヒンジ:肘金物に重さが集中して掛かることになります。その部分の框の補強金物・プレートの形は、この力の流れを予測したものと考えられます。
一方、扉左上部の縦框・上横框の仕口部は、この右下に向う力によって引っ張られることになります。その結果、この右下方に引っ張る力が、上部横框を伝わる右横向きの力に変ります。右横向きの力、それは上部のヒンジ:肘金物を押す方向の力です。つまり、この向きに筋違を入れることによって、通常、扉の重さで生じる上部ヒンジを引き抜こうとする力が、その分低減することになるのです。
ということは、もしも、筋違の向きが逆だとすると、上部ヒンジを引き抜く力は、逆に大きくなってしまうことになるはずです。
すなわち、扉を安定的に保持・開閉するという目的を達するには、筋違の向きはこの向きでなければならない、筋違が入れてありさえすればよいということではない、ということ、筋違の向きが肝心だということ、を示しているのです。
このあたりの理屈は、木造軸組工法で、筋違の入れ方・向きを間違えると架構の破壊に至ることがあるのとまったく同じではないでしょうか。
《在来工法》の《筋違理論・耐力壁理論》の「盲目的援用の危うさ・難しさ」を示唆していると言えるかも・・・。
なお、このような「知恵」は、洋の東西を問わず、いずれも、
「力学的理解:机上の理解から生まれたのではなく、現場での幾多の経験の積み重ねで培われた「知恵」であることを知るべきでしょう。
現場では、「理」が「体感として」理解されるからです。実は、これが「学」の根源のはずなのです。[文言更改追加 8日9.50]
また、Rahmentor mit Strebe には、下図のようないろいろなタイプがあるようです。同書からScheunentor 納屋・穀物倉の入口戸 を転載します。
各図とも、左側が表側、右が内側の立面図だと思われます。
筋違の向きに留意してご覧ください。
なお、先ほどのドイツの事例:Garagentorの詳細は下図になります。
木ネジ1本の取付ける位置についてまで、員数だけ打ってあればいい、というのではない「理に応じた細心の注意」が払われているようです。「理」が「体感として」理解されているからです。
これとは逆に、机上の《理解》から生まれたのが、ホールダウン金物などの日本の補強金物ではないか、と私は考えています。[文言更改追加 8日9.50]
この本には姉妹篇に“Holzfenster”があります。機会があったら、紹介したいと思っています(外開きの鎧戸+外開きのガラス戸からなる窓で、中から鎧戸だけ開け閉めすることのできる窓!、などというのがあったように記憶してます)。