今回は、「住家を建設せんとするとき要する図面」のうち、残りの「地形根切図」「床伏図」「小屋組」の項を紹介します。
はじめに原文をそのまま転載します。文中記載の図は、読み下しのところに転載します。
「地形根切図(ぢぎょう ねぎり ず)」
註 現在の表記では「地業根伐図」が普通です。
以下、読み下します。ただ、わかりやすくするため、文中の順番を多少変えます。
地形とは、建物の柱、壁などの基底(き てい)をなし、上部からくる荷重をなるべく広く平均に地上に伝えるべく行う工程で、そのために地面を採掘することを根切(根伐)と言う。そのうち、側通りや間仕切下などを細長く掘ることを布掘(ぬの ほり)りと言い、柱または床束(柱)の下など局部だけを掘り下げることを壷堀(つぼ ほり)と呼ぶ。
地形根切図は、側まわり、中仕切りなどの平面図、切断図などによって、その仕様、寸法を示すために作成する図で、丁寧な場合は、土台、玉石、沓石などを別々に図にすることもある。
第五図(下図)は、第二図(再掲します)に示す家屋の伏図を示したものである。
我が国の従来の建物では、西洋の石造や煉瓦造の家屋とは異なり、上部よりかかる荷重はきわめて小さいので、地山(ぢ やま)の固い所では、第五図・丙に示す方法で問題ないが、腰回りを煉瓦積にしたり、あるいは土蔵のようなつくりの場合は、到底長期にわたり荷重に耐えることはできないから、そのような場合は、算盤(そろばん)または蠟燭地形(ろうそく ぢぎょう)などを用いなければならない。算盤(そろばん)蠟燭地形(ろうそく ぢぎょう)については、「構造編」に詳しい説明がある。
註 上巻・構造編所載の「水盛・遣方」「地形」の項は、紹介から漏れてしまいました(紹介する前に入院してしまい、失念!)。
後日あらためて紹介することにします。
今回は、そのうちの蠟燭、算盤の解説部分と図だけ下記に転載いたします(図は、原本の図を編集)。
上図のはが蠟燭地形、に、ほが算盤地形の図で、ほはにの側面図。
蠟燭地形および算盤地形は、ともに杭打ちを必要とする地形で、
地盤の表層が建物の重さに耐えられない状態のとき、地下の硬質の地層まで杭を打ち、そこへ荷重を伝える方法である。
杭には松の生丸太を使う。
蠟燭地形(図は)は、杭の頭へ玉石を据え、蠟燭石を立て、側石を受ける。
算盤地形(図に、ほ)の算盤木には径7寸の松の生丸太の両面を杣削りし、
長さ2尺5寸位に切り、杭の頭に取付け鎹(かすがい)で固める。
補注 杣削り:斧を使って削りとること。
捨木(捨土台)は、同じく松の尺角二つ割位のものを用い、継手は相欠きで継ぎ、算盤に鎹で取付け固める。
補註
地下水位よりも深いところは、腐朽菌の生育に必要な酸素が少ないため、木材が腐朽しにくい。
それゆえ、木製(特に、耐力があり腐りにくい松)の杭が用いられてきた(旧帝国ホテルでも使われている)。
算盤、算盤木(「日本建築辞彙」の解説を要約)
礎盤(そばん)、礎盤木(そばんぎ)が、ソロバン、ソロバンギと間違って読まれ、その結果「算盤」の字があてられるようになったようである。
蠟燭(石)(「日本建築辞彙」の解説を要約)
地下水位より深い部分には木杭を用い、地表に近い部分は、腐朽を避けるために石製の束柱に代え、その石を、形状から蠟燭(石)と呼んだ。
土蔵の基礎などで用いられた地形(地業)。
土台は、壁の最下部に設けられ、壁を固定し、上方より来る荷重を一体に分布させる役割を持つ横木である。乾湿の繰り返す場所にあるが、特に水湿に対して強いヒバ、ヒノキ、クリなどを用い、樹液が発散するため(樹液の発散を避けるため、の意と解します)、下面および側面にコールタールを塗ると、大いに防腐効果がある。
註 コールタール塗布による防腐は、「樹液の発散を避けるため・・・」というより、
木材表面にコールタールの被膜をつくり、木部が直接水分、空気に接すること(腐朽菌繁殖の温床になる)を遮断する方法と考えられる。
コールタールは劣化しにくく、下地への付着力も強く、被膜が剥落することがない。金属板等の防錆にも使われている。[文言追加 19日9.00]
同様に、古来使われてきた防腐剤にクレオソートがある。
これは、クレオソートの強力な殺菌作用による防腐と考えられる(腐朽菌が繁殖しない)。木製の電柱、枕木には、クレオソート注入法が使われた。
床伏図(足元図)
土台、床束、足固め、大引、根太、床板などの大きさや位置、仕口などを第六図(下図)のように、平面図にて示す図。
大引は、両壁間の距離が短い方に3尺間に架け、4尺〜6尺ごとに床束で支える。床束の動揺を防ぐために、大貫の類を束に差すかまたは束面に釘打ちする。これを根柵貫(ね がらみ ぬき)と呼ぶ。
註 根柵貫:現在は根搦貫と書くのが普通では。
大貫:墨掛寸法で幅4寸×厚1寸(実寸で幅3寸9分×厚8〜9分程度)
現在市販の通称「ヌキ」(厚さ実寸14?・4分5厘程度)は、貫材としては問題外の「規格」であることに留意。[文言追加 19日9.00]
根太は、普通1尺5寸間で大引上端に渡り欠きとし、大釘打ちとする。根太の継手は千鳥に配置する。これを「筏(いかだ)に打つ」と言う。
註 渡り欠き:大引に渡り腮(わたりあご:下図)で掛けるために根太の一部を欠きとること。
材の欠き取り部分が小さくて済み、かつ、二材を確実に組むことができる。
図は「日本建築辞彙」より転載
各室の押入、あるいは台所などの板の間に於ける拭い板表面は、敷居と平らに納め、縁板の上端は、敷居下端とするのが普通だが、敷居上端より、1寸6〜7分下りとしてもよい。
註 「拭い板」:平滑な床板(「日本建築辞彙」新訂版 による):再掲
便所の床板は、縁板上端より、更に1寸以上高くする。
足固めは、室の内外部各敷居の下に設け、外部で壁のある個所では半足固めとして根太受を兼ねる。足固めと大引の仕口は、図中の乙、丁のように扇枘差(おうぎ ほぞ さし)とする。
最近家屋構造の改良が盛んに為され、これらの仕口の不完全を補うものがあるが、これについては後章であらためて説明する。
小屋組
第七図(下図)は小屋組の形状を表す図で、軒桁、小屋梁、母屋(もや)、棟木、谷木、束などの位置、組み方、仕口などの構造を伏図および切断図によって示す。この小屋組は、第二図に示した家屋を例にしている。
甲は伏図だが、軒の出は略してある。
図中の単線は、軒まわり、母屋、谷木、隅木の位置を示している。縁桁は、軒桁より一段下がるが、その位置は、本体の軒先との取合いで調整する。
梁の組み方は次の通り。
「い六」〜「ち六」の梁を敷梁(しきばり)すなわち下木として、「は一」〜「は十」、「い四」〜「ち四」、「ほ六」〜「ほ十」、「い七」〜「ほ七」と順次組み、その他は上木として架ける。
母屋の隅の組合せ箇所の下に>梁がないときは、「い三」〜「は三」のように飛梁(とび ばり)を設け母屋を受ける小屋束を立てる。
飛梁は、一方は軒桁に兜蟻(かぶとあり)で掛け、他方は梁上に渡り欠きとして架ける。飛梁は多少登木(のぼり き)の状態になる。
乙の切断図は、伏図のある部分を切断して、各材の位置、用途を明らかにしてその構造:つくりかた:を示し、必要に応じて部分詳細図を描くことがある。
註 兜蟻(かぶとあり)については、「日本家屋構造の紹介−11」に説明があります。
「住家を建設せんとするとき要する図面」の項終り