少し間遠くなりましたが、「日本家屋構造」の紹介を続けます。
今回は、開口部に必須の部材である敷居と鴨居の構造:つくりかたについての解説です。
日本の建物:木造軸組工法の建物では、柱が開口部の縦枠になり、横枠だけが後から付加されるのが普通です。
これは柱を塗り篭めるつくり:大壁づくりや土蔵でも同じです。
大壁づくりや土蔵では、開口部が壁に任意に設けられているように見えますが、
必ず柱を利用して設けられています。
こういうつくりかたは、現在は、稀有かもしれません。
その意味で、この解説は、貴重なのではないか、と思います。
西欧の煉瓦造や石造の建物づくりでも、開口部のつくりかたは、前代の木造に倣っていると考えられます。
つまり、基本は、日本のつくりかたと大差ありません。
現在多くなっているつくりかたは、枠組工法:2×4工法:由来なのかもしれません。
それが「常識」になってしまっている!!
はじめは、鴨居を釣る束:釣束(つり づか)のいろいろの構造。
第一 枠釣(わく づり)の仕口:方法。
第四十八図の甲は、室内の小壁(こ かべ)の釣束(つり づか)を枠釣(わく づり)とする方法の解説図。
小壁:鴨居・内法上の丈の低い壁のこと。
小屋梁の下端(の所定の位置)に、(束の頭枘の)枘孔を彫り、枘を嵌める。
そのとき、束の胴付(枘を設ける面)は、梁下端より1寸くらい下になるようにつくる。枘および枘孔も、同様に1寸くらいの逃げをとる。
束の胴付から3寸ほど下に笄(こうがい)を差し通す蟻型の孔を彫る。
笄:音はケイ たばねた髪をとめ、または冠をとめるためにさすもの。かんざし:髪挿し。・・(新漢和大辞典)
「こうがい」の読みは、髪掻(かみかき)の変化。(新明解国語辞典)
漢字の「意」に対する日本語の「読み」と思われます。
余談:当地の近在に「笄崎」という地名があり、未だに読みが判っていません!
一方で、2寸角程度の角材で図のように小屋梁をくるむような枠をつくり、その下枠を笄に掛けて束の上部を釣り、(束の下端を鴨居または無目を取付ける)。
束は、頭枘が小屋梁にあけた枘孔に嵌めてあるため、平面上で所定の位置にある。
枠釣法は、万一束が所定の位置より下がったとき、小屋梁の上端と枠の横木との間に楔を打込んで、高さの調節ができるようにした工夫である。
きわめて手の込んだ構造法で、実物を見たことも、もちろんこの方法を使ったことも私はありません。
図の乙は、釣束の上部を寄せ蟻(送り蟻とも呼ぶ)として小屋梁に取付ける方法。
この場合、蟻枘の長さは2寸〜3寸程度として、蟻型の根元は、図のように多少腰を上げて刻む。
束の(上端ではなく)根枘につくることもある。
いずれにしても、入念な刻みが必要な方法である。
図のように、梁と鴨居の向きが異なる場合は、頭枘の寄せ蟻による取付けはできない。
向きが同じの場合でも、頭枘、根枘とも寄せ蟻にするには、かなりの精度の高い仕事が要求される。
図の丙および丁は、束に鴨居を取付ける方法。
鴨居の上端に篠差蟻(しの さし あり)をつくり、束の蟻型を嵌め、傍から篠を打込んで固定する。
釣束へ鴨居や無目などの横材を取付ける場合には、すべて、これらの仕口を用いるのが望ましい。
篠差蟻、無目:前回までに説明あり。
註 図では内法貫の位置が蟻型の直ぐ上に描かれていますが、実際は、距離をとります。
この図のとおりでは、蟻型が取れてしまいます。
次に敷居と鴨居の柱への取付け方の解説。
容量的に、一頁に敷居・鴨居ごとの解説と図をまとめることができなかったため、はじめに両者の解説、次に両者の図、のようにまとめました。読みにくいかもしれません。ご容赦!
第一 敷居を柱に取付ける方法
第四十九図の甲は、柱へ敷居の待枘(まち ほぞ)および横栓を取付けたときの断面図。
図の乙は、この断面図の上側のように取付く場合の敷居の端部のつくり、丙は下側のように取付く端部のつくりを示している。
図の戌の平面図で説明する。
取付け法−1
図の戌の左側の柱の敷居の取付く面に待枘を埋め、横栓の道を彫り、敷居の端部には図の乙のような刻みを施す。
敷居の右側の端部に横枘をつくり、柱にはその枘の嵌まる孔を刻む。
横枘はおおよそ5分角(図の丁)。
先ず、敷居の右側の横枘を嵌め、次いで左側を下して待枘に嵌め、横栓を打って固める。
嵌め込み下す際に、右側の横枘に一定程度無理がかかる。
待枘は、高さは敷居の丈より5分短く、幅は3分程度、堅木でつくる。
待枘:雇い枘の一。後から柱に孔を穿ち取付ける。下に床板などがあることが必要。
取付け法−2
敷居下に足固め(あし がため)がある場合、両側の柱および敷居の両端に、図の丙のように待枘を2箇所設け、敷居を落して取付け、足固めと敷居を、およそ3尺ピッチの吸付蟻(すいつき あり)で固定する。
これは、足固めの上に敷居を載せた場合の方法。
図の下側(戌と巳)は、敷居の長さを正確に写し取る方法の解説図。
これは、柱に大きな面があったり、あるいは柱に図のように狂いがある場合の敷居の形状を決める方法。
先ず敷居材の側面を柱間に押し当て、敷居の上端の前面の角に、柱の前側の角から直角の線を引き[い][ろ]点を付ける。
次に右側の柱の内側の側面に曲尺を当て、敷居の上端に[は][に]の線を記し、この線に直交しかつ[い]点を通る直線を作図する。この線が、敷居の胴付:(右側の)柱に当たる面:を示す。
左側の柱のような大面を写し取るには、それぞれの面に曲尺を当て[ほ][へ]および[と][ち]の点を記し(あるいは線を引き記し)、次に柱の面角[り][ぬ]の距離を敷居上端に写し、[り]点を通り[へ]〜[ほ]に直交する線、および[ぬ]点を通り[と]〜[ち]に直交する線を引くと、各面を写し取ることができる。
要は「図学」の実践である。というより、「図学」の源は実践にあった、ということ。
第二 鴨居の取付け方
第五十図の甲は、片方の端部に横枘をつくり、他端は2箇所の釘彫りをして釘を打つ粗末な仕口。
中央部では(小舞竹を取付ける)塗込み貫を枘差しとし、それに釘または目鎹(目違い鎹)で取付ける。
註 現在は、これよりも「粗末」なのが実際ではないでしょうか。
図の乙は、鴨居の一端に横枘をつくり、他端には繰出し枘(くりだし ほぞ)をつくって所定の位置に設置して枘を繰り出し、枘が抜けないように楔を打つ方法。
繰出し枘:別材でつくって嵌め込み、移動させることができる枘。
これもきわめて手の込んだ方法。私は見たことがありません。
図の丙は、鴨居を大入れにする方法。
鴨居の上端に箱目違いを彫り、その木口を図の丁一のように切り落とし柱の所定位置にその形を写し取り、一方を深さ3分、他方は一分5厘ほどの深さに彫り、遣り返しで嵌め込み、片方の上端に楔を打って固める。
遣り返し:一旦、深い方の孔へ全体を入れ、次いで浅い方の孔に材を引き戻す方法。通称「行って来い」。
きわめて精度の高い刻みが必要ですが、仕上りは逸品です。
大入れは敷居でも可能で、そのときは、柱の大入れの彫り込みの下端に楔の道をつくっておき、
取り付け後、楔を打って大入れの形に密着させる方法がとられます。
これもきわめて丁寧仕事。
図の丁二は、長押の矧ぎ付けを容易にするため丸鉋をかけた場合の断面図。
図の巳は、敷居を引独鈷(ひき どっこ)で足固めに固定する方法を示した図。
この図は敷居の裏面を見ている。
引独鈷:接合する二材を、別の材:雇い材:で引きつけて接合する継手・仕口をいう。
継手・仕口または雇い材、そのどちらも「ひきどっこ」と呼んでいます。
独鈷:仏具の一。銅または鉄製の両端のとがった短い棒。(「新明解国語辞典」)
建築用語は、その形状から生まれたのでしょう。
図の戌は、引独鈷の姿。
敷居下の足固め下端で引独鈷に鼻栓を打って敷居の位置を固定する。
これも丁寧な仕事です。
足固めがないときは、根太掛などの横材が代用されます。
ここに紹介されている方法は、鴨居の取付け方の冒頭で「普通の粗末なる仕口」と述べられている方法でさえ、
現在では見かけなくなっているように思えます。
今では、それが丁寧な仕事と言われかねない・・・。
残念ながら、木ねじ、ビスの類にたよって、突き付けでおしまい、などという
日曜大工なみの仕事がまかり通っているのではないでしょうか。
そのため、乾燥材、人工乾燥・・・などと騒ぐのかもしれませんね。
ここで紹介されている方法は、どれも、木材の特徴に習熟して工夫された方法と言えるでしょう。
今回はここまでにします。
次回は、長押の取付けの解説になります。