今回からは、家屋:建物の各部の詳細の解説になります。
はじめは縁側各部の納め方。全部で四項あり、途中で切るところがありません。
それゆえ、今回は一度に全項紹介しますので長くなります。
縁側は、いまや珍しい存在になってきました。
しかし、つい先日まで、日本の住宅には、縁側があるのはあたりまえでした。
なお、「日本建築辞彙」の縁側の解説は、以下のようになっています。
縁側 建物の外方の板敷なる所をいう(英 Veranda. 仏 Ve´randa. 独 Veranda ) 。
また、縁側の謂れなどについては、別途、補足で説明することにします。
第一 縁側の仕口
第四十四図の図の甲は、縁側の各部の構造を示した図。
縁側は、柱(縁柱、縁側柱)、框(かまち 縁框 とも呼ぶ)、無目(むめ)、一筋鴨居(ひとすじ かもい)、束(吊束、釣束)、そして縁板から成る。
註 この解説は、未だガラスが使われていない頃の縁側について述べています。
前記の「日本建築辞彙」の解説も同様です。
この頃の縁側は、昼間は外気に曝されていました(風雨のとき以外)。
西欧語の Verannda は、そのような場所を言います。
明治末、大正に入ると、柱の通りに新たにガラス戸が設けられるようになります。
その際は、無目に溝が彫られて鴨居になります(無目とは、目がない、つまり溝がない、という意です)。
この場合は、 Sun Lounge(英), Sun Parlor あるいは Sun room(米)が相応しいかもしれません。
また、柱の上部の桁に丸太を使っていますが、角材も可能です。
丸太を使うのは、武家住宅以来の一種の「流行・様式」と考えてよいと思います。
框の上を雨戸を滑らせるため、外側に7〜8分の縁:樋端(ひばた)を残し溝を彫る。溝の幅は8分〜1寸、深さは2分とし、溝の底には樫の板を埋め込む。これを埋樫(うめ がし)という。
註 溝の幅は、雨戸の見込:厚さによります。
現在は見込1寸:30mm程度、戸の下部を一部削りとり溝に入る部分を7分:21mmとするのが普通かと思います。
往時は、戸をすべて溝に入れる方法が普通で、これをドブと呼んだりしています。
溝幅に往時と違いがあるのは、加工道具の違いによるものと考えられます。
埋樫は敷居の磨耗を防ぐためのもの。
埋樫のいわば代用品がいわゆる敷居滑りです。
縁板は、榑縁(くれ えん)とし、幅3〜4寸×厚7〜8分、傍:接する端部は合决り(あい じゃくり)に加工し、合釘(あい くぎ)、落釘(おとし くぎ)、あるいは手違鎹(てちがい かすがい、手違と縮めて呼ぶことがある)、目鎹(め かすがい)などで根太上に張る。
註 榑縁 縁側の長手に沿って板を張った縁側を言う。
寺社や古代〜中世の建物では、短手に厚板を張り、これを切目縁(きりめ えん)と呼んでいます。
合决り 二材の端部を互いに逆向きのL型に加工し、合せる継ぎ方。
合釘 両端を尖らしてある釘。
落釘 下側になった合决り部分に打つ釘。普通の釘。
手違鎹 両端の爪の部分の向きが、直角になっている鎹。
目鎹 図のように、片側が爪、他方が平になって釘孔がある鎹。
爪を板に打ち込み、平部分に釘を打って根太に留める。
現在の縁甲板は、一端部を凸型に、他端を凹型に加工しているのが普通。
突起部分を実(さね)と呼ぶ。実継(さね つぎ)。あるいは本実継(ほんざねつぎ)。
この場合は、凹部に釘を打ち(落釘)、次の材の凸部を凹部に嵌めて張ってゆく。
なお、合决りで、手違鎹、目違鎹で留めた往時の縁は、材の乾燥にともない、金物部分がきしむようになる。
鴬張りという呼称は、そこを歩行する際に生じる音からつくられた語。
無目は幅は柱の幅の9/10、厚さを1寸8分〜2寸程度とし、一筋鴨居は、幅2寸2分、高さ2寸程度、溝幅は8分、深さは6分として、無目と一筋鴨居との仕口は印籠嵌(いんろう ばめ)とする。
註 印籠嵌 印籠継ともいう。前註の実継の別称。
図の乙は釣束(つりつか)。束の下部、無目との仕口は篠差蟻(しの さし あり)とする。図の丙は篠差蟻のために彫る孔の形を示す。
篠差蟻とは、図丙のように、蟻型のすべてが入る孔を彫り、その両端に細い溝を切り、 束を嵌めた後、その溝から、篠(しの):薄い板状の竹を蟻型と孔との隙間に差し込む方法をいう。
註 篠は堅木でもよい。
図の丁は、縁桁に釣束を取付けるときに用いる仕口で、地獄楔(ぢごく くさび)という。手摺子(てすり こ)などの取付けにも適す仕口である。
註 これは、現在は、一般に地獄枘(ぢごく ほぞ)と呼んでいると思います。
地獄楔とは、普通の平枘の先端の左右に図のように鋸目(のこ め)を入れ、これに小さな楔を嵌め、枘孔は蟻型に刻み、そこに枘を打ち込む。そうすることで、枘の先が孔の中で蟻型に広がり、束が抜けなくなる。
この枘を使うにあたっては、枘孔の形と枘の開きの間係に留意する必要がある。
註 一旦取付けた地獄楔は、取外すことはできません(壊すしかありません)。
この方法は、増築などで、繋ぎ梁を既存の桁・梁に取付ける場合などに用いられます。
また、切石の礎石に独立柱を立てる際、礎石に末広がりの枘穴を穿ち、柱の根枘を地獄枘にすると、
金物なしで、柱を礎石に堅く結びつけることができます。
次は縁桁の仕口
以下に紹介されている縁桁の仕口は、桁の交差する隅の部分。
普通、この部分は合欠きで組まれます。
しかし、交差した桁材の上には、隅木が載ります。それゆえ、桁の高さ寸法が小さな場合には、合欠きの上に彫られる隅木のための欠き取りによって材が薄くなり、折れてしまう可能性が大きくなります。
そのような場合の工夫として捻組という手法が発案されています。この点については、「日本家屋構造」では小屋組の最初に触れています。下記を参照ください。
「日本家屋構造の紹介−10・・・・小屋組:屋根をかたちづくる(その1)
捻組も造れない、造っても折れてしまう場合の対策法が今回の仕口です。
これは、言ってみれば、実際は材が交差していないが、交差しているように見せかける方策です。
以下に原文を紹介します。
ただ、この図解は、私にはよく判らないところがありますので、とにかく先ずそのまま現代語に直します。
第二 縁桁の仕口
第四十五図甲は、縁桁の丸木(丸太)を組み合わせた姿図で、これを掛鼻(かけ はな)という。
乙は、図の甲の右側の桁を表わしたもので、下木(女木)になる。この材の木口(こ ぐち)に平枘を造りだし、さらに図のように長手に孔を彫り、シャチ栓の道を刻む(その結果、木口に2本の突起が残る)。
図の丙は、その鼻木(はな き)となる材で、掛鼻(かけ はな)と呼ぶ(注 端になる木、すなわち鼻木)。
この材には、(材の右側に向って)枘を造りだす。この枘を竿(さお)と呼び、根元は重枘(じゅう ほぞ)のごとく造り、図の丁の材(これは、図の甲の左側の材)の直径ほどの距離をあけたところからその幅を広め、シャチ栓の道を刻む。
このように造りだした竿を横にして丁の材の孔の内を通し、乙の材に差し合せ、シャチ栓を仮打ちし、乙、丙の材を引きつけ(注 栓を打つとに材が引き寄せられる)丸身に馴染ませ(注 丁材の丸身に馴染ませる意、と思われる)シャチ栓を本打ちする。
この場合、柱枘の上半分以上はわなぎ枘となるゆえ、上端から割楔で固める必要がある(注 図の甲で、交差部の上に見える2個の方形は、わなぎ枘の上端と思われる)。
註 わなぎ枘については下記参照。
「日本家屋構造の紹介−11」
この「解説」と「図」によると、
丙の材すなわち鼻木を丁の材に通すためには、丙を右に90度回さないとなりません。
当然、丙を差し合せる乙の材も同様にします。
そのままでは、竿の部分は、右側(図では外側)にあります。
さらに、そのままでは柱の枘が竿に当たるはずです。
つまり、柱の上に載せるために、丙+乙の材を、元に戻す:左に90度回転させることになる。
ということは、竿が丁の孔の中で回転するということ。
該当部分は竿の細い部分とは言え、それは可能か?
これが私の第一に判らない点。
次に、仮に、このような手順であるとすると、まず初めに桁を組んで交差させ、次いで柱に載せる段取りになる。
この段取りでは、鼻の部分が、作業中に折損する可能性が高い。
第一、それでは掛鼻にする意味がないのではないか?
私の理解してきた掛鼻は、いわば最後の工程で化粧のために後付けるもの。それゆえ判らない。
これが私に第二に判らない点です。
ことによると、以上の私の工程の「理解」は、誤りかもしれません。
どなたか、このような刻み、あるいは丸太桁で掛鼻を刻んだ方が居られましたら、
是非ご教示いただきたいと思います。
なお、掛鼻手法は、鎌倉時代以降の寺院で、木鼻(き ばな)の取付けで発達したようです。
次は、縁框と一筋鴨居の継手と仕口について
第三 框および一筋鴨居の継手
第四十六図の甲は、縁框の隅の仕口、隅留二枚枘差(すみとめ にまい ほぞさし)の図解。
図の襟輪欠(えりわ かき)は、取付く柱幅に同じ。柱へは太枘(だぼ)を打ち、さらに手違鎹などをあわせ用いて取付ける。
註 図甲の欠き込みを襟輪と呼ぶのかどうか?
図の乙は、縁框の継手の一例。箱目違(はこ めちがい:L型やコの字型の目違い)を設け
片方の材に枘を造りだし、枘部分を柱に大釘で打ち付け、そこへ他の材(図の左側の材)を嵌め合わせる(継目は、柱の芯位置)。
さらに丁寧なつくりは、図の丙のような箱目違い付竿シャチ継とする。
なお、図の丙は、一筋鴨居の継手の例である。
框、一筋鴨居の溝の深さ、幅などは、第一 縁側仕口で触れたとおり。
註 ここに紹介・解説されている方法は、現在ではほとんど見かけないきわめて丁寧な仕事です。
縁側の解説の最後は切目縁とその板の張り方について。
切目縁も、今や都会では、絶滅危惧種になっています。
第四十七図の甲は、切目縁を示す図。雨戸の外側の濡縁に使われることが多い。
板の厚さは8分以上1寸以下ぐらいとし、板の角には、図のように敷居際から2〜3寸ほどのところまでは大面(だい めん、おお めん)を取る。
縁先で板を受ける(縁)框:(縁)桁は、その外面(そと づら)が、板の木口から板の厚さの1.5〜2倍くらい内側になるように設け、板の建物側への取付けのために、板掛けを柱に打ち付ける。
框:桁を受ける束は、図の乙のように頭部に蟻型を刻み、框:桁を落とし込む。
板の長さの中央に、幅1寸〜1寸4分角で厚さ2.5〜3分ほどの堅木製の太枘(だぼ、だほぞ)を立て(註 参照)、合釘・落釘・手違鎹などで(框・桁、板掛けに取付けて)張る。
註 この太枘は、ちぎりのことか?
どなたかご存知の方、ご教示ください。
ちぎり
板を矧ぐとき、相互を確実に接合させるために埋め込むバチ型などをした材をちぎりという。
なお、板相互の不陸:凹凸が生じないように、板の裏面に吸付桟(すいつき ざん)を設ける丁寧仕事もある。
木製のまな板の脚はこの方法で取付けてある。
図の丙、丁、戌、巳は、各種の板の張り方を示した図。
丙:敷目板張(しき めいた ばり) 継目部分に目板を設ける張り方。
丁:入実張(いれ さね ばり) 継目に雇いの実板(さね いた)を入れる張り方。 雇実(やとい さね)とも呼ぶ。
戌:本実張(ほん さね ばり、ほん ざね ばり) あらかじめ板に実:突起部を設けておく。現在の縁甲板はこれ。
巳:合决り張(あい しゃくり ばり、あい じゃくり ばり) 第一項に説明あり。
長くなりましたが、本書の縁側の解説は以上です。