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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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「日本家屋構造」の紹介−7・・・・継手(つぎ て)

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[文言追補 10日 6.00、10日 8.18、10日 14.56]

  追記 「木の暮しブログ」に、プレカット工場で加工した継手・仕口の事例が紹介されています。
      いわゆる機械によるプレカットでも、伝来の継手・仕口の加工:刻みができます。
      註 大工さんが加工場で手作業で行なう刻みも、実は“ pre-cut ”なのです。[13日 16.58]
   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今回は、「日本家屋構造」から、「継手」の項の紹介。

   なお、先回大きな図版にしましたが、かえって見にくいので、今回は画面に納まる形にしました。
 
はじめは、「継手(つぎ て)」の定義から。
「第一 継手及びその男木と女木」
「継手(つぎ て)とは木材の長さを増すため、木口(こ ぐち 小口)を継ぎ合わす方法をいう。そして、枘のように突出している方を男木(おぎ)、対する方を女木(めき)と通称する。
   注 現在は「上木(うわ ぎ、うわ き)」「下木(した ぎ、した き)と呼ぶのが普通です。
      うわっき、したっき と呼ぶ地域もあります。 
この書の「仕口(し くち、し ぐち)」の説明も記します。
「仕口とは枘、目違い、追入れ、蟻、渡り、欠きなど、木材の切組み方のことをいう。」
   注 「日本建築辞彙」の解説は以下
      [継手:つぎて 木、鉄などの長さを増すための接合をいう(英語 Joint )]
      [仕口:しぐち 木に枘(ほぞ)を付け、目違(め ちがい)を立つることなど、すべて組手、差口などを言う。・・]
   補注1 英語では、継手、仕口とも Joint です。
   補注2 「文化財建造物伝統技法集成」(文化財保存技術協会 編)所載の「定義」は、下記の通りです。

次は原本の第十八・十九図の説明。図を再掲します。

「第十八図は、『蟻継 ありつぎ』といい、材料の上面の幅を1としたときの各部の寸法(比率)は図の通り。
側面に見える『段』を『敷面 しきめん』あるいは『腰掛』という。
図の上段、左側の図の下部の1/4と表記のある突起部は『目違 めちがい』と呼び、この図のような場合を『腰入れ目違(こしいれ めちがい)』という。
   注 [・・・敷面下に目違を立つることあり、これを斯く称す](「日本建築辞彙」)
『蟻継』は、多くは仮建物の桁、母屋などに用いられる。
『軒桁』などの『継手』は、柱上部の真:芯で継ぐことは稀で、柱より右または左へその木材の成:丈(せい)の2.5〜3倍くらい伸ばした位置につくる。これを『持出継 もちだしつぎ』という。
『継手』の設け方には、このほかに、柱上部の真:芯で継ぐ『真継 しんつぎ』があるが、多くの建物では、柱の上部に小屋梁が架かるので、その部分が複雑になり、弱くなるので、『持出継』とする方がよい。」

「第十九図を『鎌継 かまつぎ』と呼び、材料の上面の幅を1としたときのその長さ、各部の寸法は図示の通り。
突起部の中央部を『螻首 けらくび』といい、女木穴の深さに対して1/10程度の滑り勾配を付ける。
勾配の始まりを『上端真:芯(うわば しん)』にとる場合と、『底真:芯(そこ しん)』にとる場合とがある。
上端真:芯とは、木材の上端に於いて継手の長さを二等分した位置、底真:芯とは穴の底に於いて長さを二等分した位置のことをいう。」
   注 [螻首 くびれた形をいう。](「日本建築辞彙」)
      螻 音はロウ けら。おけら。虫の名。螻姑(ろうこ)。(字通)(新漢和辞典) 
   補注1
   この書の図は、各部の寸法を比率で示している点、分りやすい。
   補注2
   「蟻継」「鎌継」とも、仕事の手順は、?「下木」を据え、?「上木」を上方から落し込む。
   したがって、上方に「上木」を動かす一定のアキ:余裕があることが必要です。
   補注3 
   文中に「・・・多くの建物では、柱の上部に小屋梁が架かるので、その部分が複雑になり、弱くなるので、
   『持出継』とする方がよい」とあります。
   しかし、詳しくは今回の最後に触れますが、骨組の強さを確保する点で、
   骨組の主要な部材である「梁」や「桁」を「蟻継」「鎌継」の「持出継」とすることは奨められません。
   特に、「蟻継」「鎌継」による「持出継」を設けた個所に「筋かい」を入れた場合は、
   地震や暴風などで横からの力が加わったとき、
   継手部が持ち上げられたりして、簡単に破損する(はずれる)ことが考えられます。[文言追補 10日 8.18]
   補注4
   「日本の建物づくりを支えてきた技術−17の補足」で、「鎌継」の変遷・諸相について紹介しています。[10日 14.56]    

次は第二十、二十一図

「第二十図は『金輪継 かなわ つぎ』という。左右の材は同型。
『継手』の長さは、木材の成:丈(せい):高さの3〜3.5倍。左右それぞれの材の端部に設ける突起ぶ:『目違 め ちがい』、および中央の『栓 せん』(図の斜線部)の大きさは、木材の上端の幅の 1/7〜1/8 程度の正方形とする。
この継手は、土台の継手、あるいは柱の『根継ぎ ね つぎ』などに適している。
いずれの場合も、見え隠れ:目に入らない面に継目を設ける」
「第二十一図は、『尻挟継 しり はさみ つぎ』と呼び、両端の『目違い』部が側面に現れない以外は『金輪継』と同じである。『目違い』部が見えないので、外見を気にする場合に用いる。用途は『金輪継』に同じ。」
   注 『根継ぎ』[柱などの下部の腐朽部分を取除き、新材にて補足することをいう。(「日本建築辞彙」による)
   補注 
   この継手の仕事の手順は、?どちらか一方を先に据え、
   ?『栓』の厚み分(図の場合 1/8 =『目違い』の深さ分)ずらして横から滑らせ、
   ?『栓』を打ち込み、両者を密着させる(『栓』に勾配が付いているので、打ち込むにつれ材が他方に押し付けられる)。
   継がれた2材は、きわめて強く接合され、その強さは1材と変りはない、とされている。
   『根継ぎ』は、?架構を若干浮かせておき(土台がある場合は、柱の枘の長さ分以上)、
   ?柱の腐朽部分を切取り、切断面の端部を加工し(「刻む」という)を行い、
   ?所定の長さの新材の端部を同様に刻み、?新材を旧材の横から差し込み『栓』を打ち、?架構を元の位置に戻す。
   ただし、ホールダウン金物などで基礎に固定されている場合、「根継ぎ」は不可能です。
   
次は第二十二、二十三図。

「第二十二図は『追掛大栓継 おいかけ だいせん つぎ』と呼び、継手の長さ、『目違い』とも、『金輪継』と同じ。接合を容易にするため、中央の接続面に、成:丈の 1/10 程度の勾配(滑り勾配)をつくり、滑り落とした後、(図のように)側面から2本の『大栓』を打つ。『栓』には、堅木を使う。この継手は、『軒桁』や『母屋』に適す。」
   補注 
   「おっかけ だいせん つぎ」と呼ぶ地域もあります。
   この継手は、下になる材(「下木」)と上になる材(「上木」)から成り、?「下木」を据え、?「上木」を落し込む、
   という手順を踏みます。
   したがって、上部に成:丈以上の余裕がないと仕事ができません。

「第二十三図は、『鯱継 しゃち つぎ』と呼び、大体『鎌継』と同じ働きをするが、上部に落し込む分の高さの余裕がない場合に用いられる。
すなわち、部材の長手の方向で竿の方を差し入れ、2枚の『鯱栓 しゃち せん』を打つことで2材を密着させる。各部の寸法は図のような比率とする。
『栓』には堅木が使われる。
この継手の用途は、『足堅め あし がため=足固め』や『差鴨居 さし かもい』などである。」
   補注
   現在は一般に『しゃち継、シャチ継』と書きます。
   『しゃち栓』には、勾配が付けられていて、打つにともない、2材が密着します。
   材の長さ方向の移動で継ぐことのできる継手の一。
   効能は『鎌継』に似てはいますが、『鯱栓』で締めるため、『鎌継』よりは強くなります。
   『通し柱』に横材(『足固め』、『差鴨居』、『梁』など)を取付ける場合に多用されます。
   補注2
   「日本の建物づくりを支えてきた技術−34」で、「柱」に「横材」を「シャチ継」で取付ける方法を、
   模型写真で説明しています。[10日 14.56]

次は第二十四、二十五図。

「第二十四図は『茅負 かや おい』に使う『鎌継』の変形の継手。上半分を斜めに切ることで、多少見栄えをよくする方法。」
   補注 
   このような化粧を目的とする手法は、中世では化粧のための材だけに使われるのが普通でした(後註参照)。

第二十五図は、『貫』の継手各種。
甲は、柱の四方から貫を通す場合に使われる継手で、『鎌継』の一と言える。貫の幅を二分して図のような形をつくり、嵌め合わせた後(柱内に通し)『楔』を打って締め固める。
乙は、柱の左右から差すときの継手で、これも『鎌継』の一。柱の幅よりも四・五分(12〜15?)ほど少ない幅を二分して、滑り段を付けた形に切り欠き、継ぎ合わせる。
丙は、『枘鎌継 ほぞ かま つぎ』で、穴に差し込んだ後。『込栓 こみ せん』を打つ。
丁は、柱の小口の断面を示した図。
隅柱に於ける『貫』の『仕口』は、通常、桁行を『上小根枘 うわ こ ね ほぞ さし』、梁間を『下小根枘 した こ ね ほぞ』として差す。『楔』の打ち方も、これと同様にする。」
   注 「小根枘」 「日本建築辞彙」の解説は以下。
      [図の如き枘。枘の根元に突起を付することを「腰を付ける」という。
      根元全体を「大根(おおね)」という。]
      
     柱に同じ高さで横材が取付くとき、このように枘を二等分して交差させるのが一般的な方法です。
     「うわっこね」「したっこね」のように発音する地域もあります。
   補注
   いずれも、2材を継いだ後、柱に差し込みます。その場合、「貫」を通す穴は、「楔」の厚さ分、
   大きくあけておくことになります。

次は第二十六図。

「これは、一名『宮島継 みやじま つぎ』と呼ばれる継手。『交喙鳥継 いすか つぎ』と同じ。継手の長さは、材の成:丈の二倍くらいとし、上端では3.5倍〜4倍くらいとして図のような工作を施す。天井の『竿縁』の継手に用いられる。」
   補注
   交喙(鳥)=鶍 いすか スズメ科の小鳥の名前。嘴は曲って上下くいちがう。(「新漢和辞典」)
   この鳥の嘴のように、上下くいちがっている形から付けられた名称と思われます。
   見かけを綺麗に見せる化粧のための継手です。強さを要する部分には使いません。
   『竿縁』の継手に使うとありますが、通常の大きさの建物では、継がなくてもつくれます。
   大広間など、広い天井で必要になり、考え出されたものと思われます。
   このように組むことで、継がれた材相互に段差ができるのを防げ、また、継いだ面も気にもなりません。
   
   なお、この書物では、骨組本体のために必須な継手と、見栄えをよくするための継手を同列で解説していますが、
   継手は目的によって(強さを求めるか、見栄えを大事にするか)選択する必要があります。[文言追補 10日 6.00]


後 注

柱と柱の間に横材を架けると、冂型をした架構になります。
通常は、この架構が横並びします。
この架構の横材上に物が載ると、横材が下方に曲ろうとし、その影響は、両側の柱へと伝わります。
柱と横材のつなぎ方で、柱への影響の伝わり方は異なります。

木造建築の場合、地域によらず、始原的な事例では、すべて、この形を採ります。
しかし、「持出継」にすると、様相が変ります。
たとえば、柱間10に対して、横材が左から1の位置で継がれていたとします。
その継手が「蟻継」あるいは「鎌継」の場合、継がれた横材に物が載ったとき、架構は冂型の形はしていても、その影響は片側の柱にしか伝わりません(まったく0ではありませんが)。
「継手」のところで、影響の伝達が途絶えてしまうのです。
極端な言い方をすれば、「 をした架構に物が載っているのと同じことになり、冂 型の場合に比べると、柱への影響が大きくなり(増えてしまい)、架構は数等弱くなってしまうのです。一本の柱で横材を支えているのに等しいからです(普通、「片持梁」と読んでいます)。
もっと簡単に言えば、継がれた横材が、継手位置で、容易に折れてしまう。
それゆえ、
「・・柱の上部に小屋梁が架かるので、その部分が複雑になり、弱くなるので、『持出継』とする方がよい」
との解説は、いかなる「継手」にも通用するわけではなく、限定されます。
「持出継」に通用する継手は、「追掛大栓継」「金輪継」などに限られます。

建物本体の架構で、「持出継」がいつごろから「一般化」したか、以前に調べてみたことがあります。
   建物本体=建物の強さを決める部分(普通、「構造部材」と呼ばれています)。
どうやら、近世(の初め?)までは、通常、架構の本体に「持出継」を使うことはなかったようです。
少なくとも、中世には、「蟻継」「鎌継」や「持出継」は、見栄えを求める欄干などいわば化粧材に使うのが普通で、強さを要求される「梁」や「桁」などに使う事例はないようです。
想像ですが、「持出継」は、「見栄え」「形式」を重視する武家の住宅などで、近世(の末期?)になり、増えだしたのではないか、と思っています。
この点について、下記で触れています。
日本の建物づくりを支えてきた技術−25・・・・継手・仕口(9)中世の様態
同−26・・・・継手・仕口(10)中世の様態:2

  私も学校で、「持出継」が正道のごとく教わりました。
  本来「真:芯継」が当たり前であったことを知ったとき、それこそ目からウロコでした。
  考えてみれば、その方が理に適っているのですが、そのことに気付かなかったのです。

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