(「Ⅲ-3-1」より続きます。)
室中しっちゅう(方丈)内部 見えているのは上間(じょうかん)南室 室中(方丈)使われている状況 日本の美術より
仏堂が別にあるため、龍吟庵方丈には仏壇がない。 天井際を回る白壁(大壁)部分を蟻壁(ありかべ)と呼ぶ。これは、竿縁の割付のための工夫。天井を浮かせて見せる効果がある。
蟻壁と真壁との見切りの横材は蟻壁長押(ありかべなげし)と呼び、鴨居レベルの長押を内法長押(うちのりなげし)と言う。いずれも付長押(つけなげし)。室中には、蟻壁長押と内法長押の中間にも長押がまわり、この長押は、上間(じょうかん)、下間(げかん)の蟻壁長押へ連なる(後述)。
室中(方丈)南面を見る 襖は下間南室境 上間北室 上間南室から見る。右手は方丈(室中) 白黒写真3枚は日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより
竿縁天井の竿縁は、南側3室の南北部屋境間に架かる大梁から吊木で吊られ、竿縁の向きはそれによって決まっている(下図参照)。
梁行断面図 日本建築史基礎資料集成十六 書院Ⅰ より転載・編集
梁行断面図 着色部分:小屋裏 引き渡し勾配:4寸5分 右が庭側(南側) 赤丸箇所に貫が入る。貫の仕様は詳細図参照。桁行の足固は、根太が代行。小屋の貫は図の通り。 広縁の側柱通りでは、柱間を飛ばすため、柱・化粧垂木受けの桁・化粧垂木・桔木受けの大桁・桔木・野母屋・野垂木の構成。
参考 諸事例の屋根 引渡し勾配 法隆寺伝法堂:約4寸 新薬師寺本堂:約4寸5分 唐招提寺・当初:約5寸 秋篠寺:約5寸 浄瑠璃寺:約6寸5分 法隆寺大講堂:約5寸5分 浄土寺浄土堂:約6寸 東大寺南大門:約6寸
龍吟庵方丈 各所の詳細、継手・仕口 各詳細図は文化財建造物伝統技法集成(発行 文化財建造物保存技術協会)より
1)大引兼足固貫の継手、柱との仕口
上図は、断面図赤枠内の大引兼足固の詳細。黄色部は埋木(楔)。 室中部では丈5寸×幅3寸の大引・足固材を、北側の柱間が1間になる箇所からは丈3寸×幅1.5寸に削り、次の柱内で相欠き・埋木(楔)締めで継いでいる。胴付を設けたと同様の効果がある。これは、浄土寺 浄土堂で使われていた技法と同じである。註 胴付(どうづき)(附):枘の根元まわりの平面をいう。英語ではshoulder。
2)切目長押隅部仕口、切目長押(きりめなげし)と室内側床板の仕口、床板の矧(は)ぎ(例示箇所:上間南室・西南隅柱)
柱:大面取り、仕上り4寸8分角 。 室内床と縁との見切りに設けられる横材を、切目長押と呼ぶ。構造材ではない。 室内に畳を敷く場合は柱通りに敷居を置く。 床板の厚さは0.8寸 太枘(ダボ)の厚さ0.3寸 これらの細工は、不陸を避ける目的
3)小屋束~母屋の仕口、小屋貫の継手
上左図 小屋束と母屋の仕口:小屋束に枘をつくらず、束柱、母屋双方を刻み、母屋を束柱に落し込んでいる。この方法を、一般に輪薙(わなぎ)込み(む)と言う。 註 一の木を他木に食ますこと 日本建築辞彙による
上右図 小屋貫の継手:相欠き部の全長が3寸(片側1.5寸)であるため、図に示されていないが、束柱は3.5寸角程度で、小屋束内にて埋木(楔)締めと推定される。
4)蟻壁長押、内法長押の詳細、長押と吊束の仕口
断面図の赤枠で囲んだ箇所の詳細図。 左側が室中、右は下間南室。室中側上段の付長押は蟻壁長押、中段は下間側の蟻壁長押と同一レベル、下段が内法長押。蟻壁長押は天井長押とも呼ばれる。内法長押と中段の付長押の裏側に、貫が入る。
吊束は天井裏の梁から下がり、柱と同寸(4.8寸)面取り。束の下端を長押に当たる部分だけ面をとらず図のようにバチ型に刻み、長押側も図のようにバチ型に刻み長押を取付ける。鴨居は上反り加減に材を使い、柱両端に納める。
現在は、先に吊束で鴨居を寄せ蟻で取付け、長押は鴨居に載せ釘留めにするのが普通の方法。なお、鴨居は溝を彫らず、樋端(ひばた)を隠し釘で取付ける付樋端(つけひばた)。 この図から、貫の断面寸法が分る。
5)内法長押の継手
長押は、柱、吊束位置で継ぎ、継手は鎌継ぎ(図は、吊束位置の場合)。鎌継ぎの使用は、材を密着させるためと考えられる。 幅1寸3分、丈3寸5分の中に、丈2寸4分の鎌継ぎを刻む精緻な仕事が室町初期には可能だった。
6)広縁の桁と広縁端部の片面虹梁づくりの側桁との仕口(図は、東端部の場合)
天井見上図 断面 平面共に日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより
側桁は、外壁面で角、広縁側では虹梁(こうりょう)を装う。 図は東端部を描いているが、西端部も同じ。前出の西面外観写真で、広縁上部の側桁の内側は虹梁型につくられている。これは、意匠のために無理をした仕事。 後出の慈照寺 東求堂参照。
各詳細図は文化財建造物伝統技法集成 発行 文化財建造物保存技術協会 昭和61年より