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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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「1-5 『木』と『木材』の性質を知る」 日本の木造建築工法の展開

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 「日本の木造建築工法の展開」

PDF「Ⅰー5 木 と 木材 の性質を知る」 A4版10頁 (PCの方は、左上の「開く」をクリックし、さらに「Word Onlineで開く」をクリックしてください。)

 

  Ⅰ-5「木」と「木材」の性質を知る・・・・木で建物をつくるために

  最近、シックハウスの解消から地球環境の問題に至るまで、いろいろな角度から、森林、木や木材、あるいは木材の利用についての関心が強くなってきています。 けれども、木や木材について、かならずしも十分な情報が伝わっているとは思えません。そこで、まず、木と木材について知っておきたいと思います。

 木材は樹木を伐採し、製材してつくられます。樹木には自然成育のものと人工栽培のものがあります。奈良時代の建物では、建設地近くの自然生育の木材が使われていましたが、東大寺の再建の行われた鎌倉時代の初めには、すでに近在には良材がなく、現在の山口県に木材を求めています。  

 現在、わが国の森林は、ほとんど自然林・原生林がなくなり、人工林になっています。しかし、後で触れますが、木材として使える樹木がなくなっているわけではなく、木材として使える樹齢50年以上の人工林の樹木が、私たちの手近な場所に、しかも大量に手付かずにあります。

  ヒノキ・スギの人工林(30~40年)

 樹木には、大きく分けて広葉樹と針葉樹があり、日本の建物には針葉樹(スギ、ヒノキの類)が使われるのが普通ですが、西欧では広葉樹(カシ、クリ、ナラ、など)が多いようです。

 スギやヒノキはほとんど垂直に成長するため木目もまっすぐですが、広葉樹は曲がりくねって成長するのが普通で、製材した木材も曲がっています。これが、  頁の西欧の建物のようなつくりかたを生んでいるのです。ただ、わが国でも農家の住宅などには、下の写真のように広葉樹を使う例も多く見られます(17世紀末建設の旧広瀬家。山梨県塩山。現在、川崎市立日本民家園)。また、後にはケヤキが使われるようになりますが、その場合は、まっすぐに加工するため、大きな径の樹木が必要で、堅いケヤキを扱える道具も必要でした。

   

 柱や梁はクリ材 旧広瀬家(日本の美術 №60)        垂木が円形の新薬師寺本堂内部(日本の美術 №196)

 

 日本の古代文化に影響を与えた隋・唐は、中国大陸西北部の黄土高原が中心です。この地域の木材は、広葉樹の楊樹(ようじゅ)が主で、屋根を支える垂木(たるき)に楊樹の丸太を使うことが多く、中国の技術にならって建てられた奈良時代初期の柱や梁はクリ材 期の建物に、円形の垂木を使った例があります。中国の様式にならうため、角材をわざわざ円形に仕上げたのですが、後になると、日本の木材にあった方法に落着きます。

 同じ木造の建築でも、それぞれの地域には、その土地特有の樹木を使った、その地域の暮しに適したつくりかたがあるのです。                   

 現在、わが国には、第二次大戦後植林された多量のスギ、ヒノキなど針葉樹を主とした人工林が、材木として使える樹齢に達しています。しかし、大量に輸入される安価な外国産材(ほとんど自然林、原生林の伐採材)に押され、日本の環境に適した国産材の利用は目だって減ってきています。

 人工林は、下草刈りや間伐などの日常的な手入れが必要です。わが国の人工林の多くが山地であるため、手入れには大変な労力がいりますが、木材としての利用が減ったため、手入れもされずに放置されている人工林が増えています。これが国産材の一層の利用が叫ばれる一つの大きな理由です。 

 

 1.樹木の成長の仕組み・・・・樹木は生き物

 樹木は、樹皮とその内側の形成層と木部から成っています(下写真)。形成層とは、樹木の成長している部分です。形成層は樹皮のすぐ内側の厚さは数分の1mmほどの薄い層です。木部は、辺材(へんざい)と呼ばれる外側の部分、心材(しんざい)と呼ぶ内側の部分からなります。

 製材された板などを見ると、白い部分と赤味を帯びた部分があります。白い部分が木部の樹皮側の場所:辺材で、白太(しらた)と言い、赤味を帯びた部分が木部の芯に近い:心材で赤身(あかみ)と呼んでいます。                                 

    

約100年生のヒノキ                      法隆寺中門の列柱 捩れた木理にそった割れ

 樹木は根から養分・水分を吸収し、辺材を上昇して葉に至り光合成で新たな養分に変り、樹皮部を降下して形成層に供給され、細胞がらせん状に増殖します。そのため、製材後、材が捩れる原因になったり、右の写真のように、らせん状の捩れた木理が現れる場合もあります。

 また樹木の成長は季節によって度合いが違うため、日本のように四季のある地域では、1年間の成長の幅を、はっきりと読み取ることができます。この1年間の成長の幅を年輪と呼んでいます。成長の幅は、暖地では広く、寒地では狭く目がつんでいます。目のつんだ材の方が、強度的には強いようです。四季のない地域の樹木では年輪は見られません。

  樹木の細胞は、幹の方向:軸方向に長い細胞と、幹の径の方向:放射方向に長い細胞に分けられますが、針葉樹では、軸方向に長い細胞が95%を占め、広葉樹では80% 程度です。                                             

 ヒノキ・スギは30~40年生で直径が30cm程度、高さは10mを軽く越えます。このような細い樹木が、苛酷な自然環境の中で強風などでも折れずに立ち続けることができるのはなぜでしょうか。針葉樹の軸方向の細胞の大きさは、一個の直径は数十μ(ミクロン:1/1000mm)、長さは数cmで、幹の軸方向に細いストローを束ねたように並んでいます。風などで簡単に折れてしまわない理由は、こういう組織が備えている特性にあります。

 つまり、樹木の組織には、常に、外周側:樹皮の側では幹を締め付けるような力が、上下方向では引っ張りあう力が蓄えられています。強風で幹が曲がろうとするとき、このあらかじめ蓄えられている力で抵抗して、簡単には曲がらず、よほどのことがないかぎり折れることもありません。樹木を鋸で切ろうとしたとき、抵抗を受けるのもそのためです。

 そして、樹木を伐採し製材すると、樹木の各部に蓄えられていた力が解き放され、製材した木材に収縮や捩れなどを起こす原因の一つになります。

 木材は、鉄などのように均質ではなく、部位によって性質が異なり、さらに環境に応じて変動するのが特徴で、木材を利用するときには、この特性に十分注意しなければならないのです。

 

 2.白太、赤身の違い

 樹木を構成している細胞の殻:細胞壁は、高分子化合物でできていて、環境の変化に応じて、分子のレベルで水分を吸収したり、放出したりしています。この水分のことを結合水と呼んでいますが、生きている樹木の細胞は、最大で、乾燥したときの木材の重さの30%にあたる大量の水分:結合水を吸収できると言われています。特に、根からの水分・養分が通る辺材:白太には、水分:樹液が多量に含まれています。下の写真は、薪用に伐採され、まだ乾燥していないアカマツの丸太ですが、辺材:白太部分にはたくさんのカビが生えていて、水分・栄養分が多いことが分ります。 

 辺材:白太には養分が多いので、カビが生えている     

 樹木が成長すると、若いころに成長した形成層は活動をやめ、細胞の抜け殻が残ります。この部分が心材:赤身で、赤味を帯びた色は、細胞をつくっていたセルロース、リグニン、タンニンなどによるものです。

 心材:赤身の細胞の抜け殻の空洞には、自由に水分が入り込みます。これは普通の水で、自由に吸・放出を繰り返すので自由水と呼ばれます。しかし、この部分は養分が少ないため、上の写真のようにカビもあまり生えません。

 白太と赤身に含まれる水分の量を含水率で示した のが下の表です。  

  

 含水率については後で説明しますが、含水率が大きいと、含まれる水分量も大きいことを表します。 

 

   3.木を乾燥するとは、どういうことか・・・・木材の生態

 木材を使うときは、よく乾燥した木材を使うことが大事と言われます。しかし、木の乾燥について、一般に正しく理解されていないように思われます。伐採した樹木を放置すると、最初に心材:細胞の抜け殻に入っていた自由水が蒸発し、自由水が全部蒸発し終わると、辺材に含まれている結合水が蒸発を始めます。

 そのまま放置を続けると、外気中の水分と樹木の中の水分が平衡の状態になり、結合水の蒸発がとまります。これが、樹木を自然乾燥させたときの状態で、気乾(きかん)状態と呼びます。伐採した樹木を1年間放置すると、気乾状態になると言われています。

  しかし、気乾状態のときでも、木材に含まれる水分量は、年間を通して一定ではなく、季節や周囲の状況により変動します。逆に言うと、周辺の環境の湿度を調節しているのです(調湿機能(ちょうしつきのう))。

 木材は、季節や置かれた環境により含水率が異なり、しかも樹種によっても、また同一の樹種でも1本ごとに異なり、同一のものはありません。これも、鉄などと大きく異なる点です。 樹種別の平衡状態の含水量の年間の変化(平均値)を調べたのが下の表です。 

   

 平衡状態になった木材を、さらに人工的に乾燥し続けると、含まれる水分は0になります。この状態を全乾(ぜんかん)状態(絶乾状態)と言います。しかし全乾状態を保ち続けることはできず、普通の環境では、全乾状態の木材は空気中の水分を吸収して、平衡状態に戻ります。樹種によりますが、平衡状態の含水率は15%前後と言われています。けれども、常に一定なのではなく、上表のように、季節で異なるのです。 

 自然乾燥(天然乾燥とも言います)をしても人工乾燥をしても、普通の環境の下では、決して木材中の水分が0になることはなく、しかも含まれる水分の量も年間を通じて一定ではなく、置かれた環境に応じて増減している、水分の吸・放出を繰り返すのが木材の重要な特性なのです。

 この木材特有の性質を妨げると、たとえば、外気との自由な接触を途絶えさせたりすると、重大な問題が生じてしまいます。そして、この点についての理解が最も不足し、誤解も多いように思われます。

 

 4.木材の含水率とは?

 では、木材の含水率とはどういうものなのでしょうか。

 重さが100グラムの木材を、全乾状態にしたら80グラムになったとします。ということは、水分が20グラム含まれていた、ということです。普通の感覚では、100グラムのうちの20グラムだから20%、と考えますが、実はそうではありません。木材の含水率の定義は特別なのです。木材の含水率は、含まれていた水分の量が、全乾状態:カラカラの状態の木材の重さの何%にあたるか、という表し方をします。

この例では、水分20グラムはカラカラの木材80グラムの4分の1ですから、含水率は25%ということになります。

  

 

 5.木材の経年変化・・・・・老化、風化

  老化、風化とは、木材自体にかならず生じる経年変化のことを言います。

 1)老化 木材も人間と同じように、時が経つと老化します。老化とは、酸化や熱の影響で、材料の内部に起こる材質の変化のことを言います。老化の速度は、材料:樹種によって異なります(下図)。

 ヒノキは、伐採後およそ200年間は強度が上がり、その後はほとんど強度に変化がないと言われています。この傾向は、ヒノキに限らず針葉樹に共通の性質です。これに対して、近世になって多く使われるようになるケヤキは、当初の強度はヒノキの2倍程度ありますが、経年変化が大きく、およそ500年で1/2~1/3程度に強度が落ちてしまうと言われています。 この違いは、細胞の接着剤の役割をはたしているリグニンの構造が、針葉樹と広葉樹では異なることによるようです。

 いずれにしろ、通常の場合、老化現象だけで木材、木造の建物の寿命が尽きることはないのです。たとえば、建設後800年以上経った東大寺南大門は、大半が当初材(ヒノキ)のまま現在も健在です。

 2)風化  無垢の木材を表しにした建物は、木部が数年をまたず黒っぽい茶色に変ってきます。これは、木材が陽に焼けた結果です。 建物の外壁に張られた板などで、木目がはっきりと出ているのも風化によるものです。わが国の多くの古建築が黒っぽい茶色をしているのも同様です。 

  風化とは、材料自体ではなく、材料をとりまく環境:紫外線、熱、水、酸素などの影響により材料の表面が変化することを言います。風化による変化の量は、昔から、ヒノキなど針葉樹の場合、「百年一分」と言われています。100年で1分、つまり3mm程度風化する、という意味です。したがって、通常の場合、風化だけで木材の寿命、木造建築の寿命が尽きることはないのです。

  なお、無垢の木材の風化、色が変ることを避けるため、塗装をかける場合がありますが、塗り替えを頻繁に行なわないと、その状態を維持することはできません。古代の寺院でも、当初は朱色に塗ってあっても、塗り替えが行なわれなかった場合、塗装がはげてしまい、塗装をかけない建物と同じように黒っぽい茶色に変っています。

  なお、古代の建物に使われた塗料は、材料の表面に皮膜をつくりませんが、現在使われる塗料の多くは皮膜をつくります。この皮膜は、ある程度紫外線や酸素の影響を防ぐ効果はありますが、水を完全に途絶することはできないため、多少でも皮膜内部に侵入してしまった水は、外に逃げにくいので木材の腐朽の原因になります。塗装は最低3年に一度は塗り替える必要がある、と言われるのはそのためなのです。なお、最近は、皮膜をつくらない浸透性の塗料も開発されています。

 腐朽や虫害も経年変化の一つと考えられがちですが、木材の老化、風化は避けることができないのに対して、腐朽や虫害は避けることができますから、同じに考えることはできません。

 

(Ⅰー5. 6に続きます。)


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