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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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「付録2 日本建築の開口部と建具・概要-1」 日本の木造建築工法の展開

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   「日本の木造建築工法の展開」   

  PDF「付録2 日本建築の開口部と建具・概要」 A4版12頁 (PCの方は、左上の「開く」をクリックし、さらに「Word Onlineで開く」をクリックしてください。)

 

付録2 日本建築の開口部と建具・概要・・・建具の種類、納めかた 

1.日本建築の開口装置

 古代~中世の開口部・間仕切り

 御簾、蔀の利用

貴族の住居:寝殿造の外周の廂(庇)部では、吹き放しの箇所と、御簾(みす)(すだれ)や蔀戸(しとみど)、または板戸(舞良戸(まいらど)もある)が入る場合があり、間仕切りとしては屏風(びょうぶ)などが用いられ、土壁で塗り囲まれた塗籠(ぬりごめ)では、妻戸(つまど)(室の隅に設ける両開き戸)が使われていた。 

  

東三條殿復元平面図 部分  日本建築史図集 より        御簾、屏風の図 源氏物語絵巻 日本建築史図集 より

 

 軸釣り開き戸(奈良~平安時代)

奈良時代の寺院建築の外部出入口は、すべて開き戸で、柱外側の上下の長押に軸釣り(現在のピボットヒンジ)で仕込むが、平安時代には、柱外側に添えた太目の額縁(がくぶち)に軸釣りとする方法も生まれる。

貫工法が主流となり長押を使わなくなる鎌倉時代以降は(主に大仏様、禅宗様の建物)、貫外側に扉を支持する部材(藁座(わらざ)と呼ぶ)を別途設けて釣っている。

   

上:端喰による板戸(法隆寺・伝法堂)奈良六大寺大観 法隆寺一 より  下:蔀戸、半蔀(西明寺本堂)日本建築史図集より   藁座による軸釣り開き戸(東大寺法華堂礼堂) 奈良六大寺大観 東大寺一より

 奈良~平安時代の建具

板 戸:奈良時代に使われた扉は、厚さ3寸ほどの板を矧(は)いでいる(時には1枚板)が、平安時代には板厚が2寸程度になり、反りを防ぐため上下に端喰(はしばみ)(端嵌め(はしはめ)から転じた語)を設ける技法も生まれている。

蔀 戸(しとみど):四周に框(かまち)を組み薄い板を張り、前面を格子、裏面を横桟に組んだ跳ね上げ建具。長押に外付け。上層階級の住宅で多用され、後に寺院でも使われる(左上図参照)。

半 蔀(はんじとみ):蔀戸を上下に分け、上部は跳ね上げ、下部は落し込みで取付け、取り外し可能(上図参照。外した戸は別の場所に格納)。

格子戸(こうしど):四周に框(かまち)を回し格子を組み、薄い板を張った戸。 

舞良戸(まいらど):四周に框(かまち)を組み、見付けの細い横桟または縦桟を繁く設け、薄い板を張った戸。この形をした開き戸もある。

杉 戸 :四周に框を組み、薄板の鏡板をはめた戸。絵が描かれることもある。

襖(ふすま)  :格子の両面に厚紙や布を貼った戸。

明り障子(あかりしょうじ):格子に薄い紙を貼った建具。平安時代末期までに生まれた。現在の障子。当初は桟が現在に比べ太く、框と大差ないが、次第に桟は細くなる。明り取りのために、蔀戸や連子窓(格子窓)の内側に仕込まれた。⇒次項参照

遣 戸(やりど):引き戸の当初の呼称。⇒次項参照

なお、室内の仕切りには、衝立(ついたて)や板を張らない格子戸が使われた。障子は、襖(ふすま)、衝立(ついたて)など仕切りに使うものの総称であった。

 

 引違い戸の普及(平安末・鎌倉時代以降)

鎌倉時代までには、格子戸、舞良戸、板戸、明り障子を敷居・鴨居の間で引違いに引く方式:遣戸(やりど)が定着、普及する。

当初の引違い戸は、敷居・鴨居に設ける戸を仕込む溝(樋端(ひばた))の幅が戸の見込み全部が入る溝であったため(ドブと通称)、引き違い戸相互の間には3分(約9㎜)以上の隙間があった。樋端の溝彫りの工具がなかったためで、付け樋端とする例が多い。 後に、樋端幅を、現在のように、戸の見込み寸法の7割程度にして引き戸間の隙間を1分(3㎜)程度にする方法が生まれる。

 書院造の引き戸

書院造で普通に見られる引き戸は、柱幅が一般に4寸2~3分(約130㎜)程度あるため、以下の構成とする例が多い。

① 3本溝に板戸2枚、明り障子1枚の3枚構成とする。柱間の半分が明るくなる。 ② 柱間の中間に方立を立てて柱間の半分を袖壁として、2本溝で板戸、明り障子各1本を袖壁部に引込む(片引き戸)。明るさは①に同じ。  

   

光浄院客殿 部分平面図                     浄院客殿東面 玄関建具詳細   

六畳東面の中門廊寄り1間が玄関の両開き戸(右図)  玄関北側の各柱間は明り障子+蔀戸・半蔀(下断面図)

     

                 光浄院客殿 東面 開口部 解説図(単位 寸)

    

光浄院客殿上座の間 広縁 開口部 左:外部 右:内部   板戸(舞良戸)を開けた状態。明り障子1枚分から外光が入る。舞良戸の室内側は紙貼り(絵が描かれていた)。  上図は、この部分の詳細図(断面詳細図より作成)  図、写真は 日本建築史基礎資料集成 書院一 より

 

 雨戸の誕生(桃山時代以降)

書院造の遣戸方式は、開閉は容易である全面開放ができないため、室内は蔀戸方式よりも暗くなる(前項参照)。

桃山時代以降には、柱通りの外側に1本溝の敷居・鴨居(一筋(ひとすじ)と呼ぶ)を設け、開口部の端部に半間幅の戸袋(とぶくろ)を設けて板戸をしまい込む雨戸が考案される。

   

中級旗本の住居の開口部            中級武士目加田家の開口部の構成

 

 庶民の住居の建具構成

庶民の住居には、近世以前の遺構は見当たらない。室町期に建てられた古井家、箱木家では、主要な開口には、室内外とも片引き板戸が入り、部分的に明り障子を入れている。

  

古井家 復元平面                    日本家屋構造所載の明治期の開口部例 一般住宅の縁側 商店の上げ戸 

 17世紀後半には、書院造同様、敷居・鴨居に3本溝を彫り、板戸2本・明り障子1本の構成が現れる    さらに時代が下ると、武家の住居同様、開口部を広くとり、縁側を設け、柱外側に雨戸を仕込む例が一般化する。   なお、商家・町家では、表通りの店先に、現在のシャッターに相当する上げ戸(揚げ戸)を設ける例が増える。   

  規格建具の流通

江戸時代には、柱間1間を基準とし内法高を一定(5尺7寸、5尺8寸など)にして、一般の住居向けの規格建具:掃出し、肘掛け、腰高など(鴨居下端からの寸法で指示)が用意されるようになる。住宅用アルミサッシの旧規格は、この規格建具の寸法体系による。

  ガラス戸の導入・普及

ガラスの生産は明治末期に始まり、昭和初期に大量生産が本格化し、以降一般に普及する。初期のガラスは厚さ1.5~4㎜、大きさも小さい。 

ガラスは、当初、明り障子の一部に組み込む使い方がされ、その後、框を組み、数本の横桟の間にガラスを入れるガラス戸として普及する。それにともない、雨戸の内側にガラス戸を入れる方式が生まれ、雨戸を開放すると外気に曝されていた縁側が、ガラス戸で囲われるガラス戸+雨戸という縁側の定型が生まれる。

 

大正期の中廊下式住宅 ガラス戸+雨戸による縁側

参考資料 日本建築の構造 浅野清著(至文堂) 日本建築史基礎資料集成 (中央公論美術出版)  日本建築の鑑賞基礎知識 平井聖著(至文堂)  日本建築史図集 日本建築学会(彰国社)  

 

 2.真壁の開口部:枠回り

木造軸組工法の建物の開口部:枠回りは、大壁仕様の場合も、真壁仕様の納まりを基本とすると分かりやすい。

 真壁仕様の枠回りの基本

① 縦方向は柱をそのまま利用し、横方向は柱間に敷居・鴨居を取付ける。開口部が柱間よりも狭い場合は、方立を設けて調整する。 註 引き戸の溝を設ける場合を敷居・鴨居と呼び、溝のない場合を「無目(むめ)(無目敷居・無目鴨居)」と言う。

敷居・鴨居・無目、方立には、一般にスギ、ヒノキ、マツ、ツガ、米マツ、米ツガなどが使われるが、真壁の場合は、柱材と同一にすると違和感がない。註 材の反りを考慮し、鴨居は木表を上端側、敷居は木表を下端側にする(開口側が木裏となる)。

② 敷居・鴨居の幅は、一般に、柱の面内(めんうち)納めとするが、敷居と床面が同高のときは、敷居は柱幅にそろえる。 また、小さな開口で、方立に敷居・鴨居が取付く場合は、一般に、方立を優先し(縦勝ち)、方立の面内に敷居・鴨居を取付ける(見込み寸法が同一でない)。 註 真壁仕様では、縦材と横材を留めにすることは稀で、どちらかを面内で納めるのを常とする。

③ 敷居・鴨居・無目の見付け寸法(厚さ)は、1寸~1寸5分(約30~45㎜)以上。 鴨居の見付け寸法は、真壁の場合、壁面の見えがかりに影響するので、任意に設定できる。構造材を兼ねた差鴨居とすることもできる。          

④ 引き戸の場合、通常、溝は、敷居・鴨居の芯振り分けで彫り込む(柱芯、敷居・鴨居芯が基準となるため、仕事に間違いが起きにくい)。 溝を彫り残した部分を樋端(ひばた)と呼ぶ。 溝の深さは、鴨居は5分(約15㎜)、敷居は仕上がりで0.5~0.6分(約1.5~1.8㎜)程度。 敷居溝には、一般に、磨耗を防ぐため堅木の埋め樫(うめがし)や塩ビ製敷居すべりを張るので、溝自体の深さは1分(約3㎜)。註 樋端を芯振り分けのとき、引き戸は芯振り分けには納まらず、内外のどちらかに寄る。建具を芯振り分けで納めることもできるが、溝彫りの墨付けに対して、適確な指示が必要。その場合も、材芯からの寸法指示が適切。材の端部からの寸法指示は間違いを起こしやすい。一般に、木造軸組工法では、墨付けは、常に、材の芯からの寸法で行う。

溝の形状は、一般に戸の見込み寸法に応じて決めるが、地域によって異なる。 関東地方の通常の引き違い戸の敷居・鴨居形状例は下図(単位は寸表示)の通り。 註 戸と戸の隙間を1分(3㎜)、溝幅7分(21㎜)とした寸法であり、ガラス戸、板戸、フラッシュ戸、障子に共用できる(見込み6分仕様の伝統的な襖も含む)。

註 建具の見込み寸法が1寸2分(約36㎜)を超える場合は、溝幅を8分(約24㎜)以上とする。レール・戸車式の引き戸では敷居の溝は設けないが、平戸車の場合は溝あり。

⑤ 開き戸の場合は、戸当りを柱・方立・鴨居に設ける。真壁では、敷居は平が一般的だが、靴摺り・戸当たりを設けることもできる。 註 建具の位置は任意に設定できるが、指示に適確さが必要。材の芯に戸当りを付けると間違いがない。  戸当りは、幅8分~1寸×出3~4分程度。戸当りの取付けは、丁寧な場合は小穴を突く。

⑥ 雨戸は、柱の外側に、雨戸用の1本溝の敷居・鴨居を本体の敷居・鴨居に小穴を突き取付ける。

⑦ 外部などで建具を多重に設ける場合(柱間に障子を備え、さらにガラス戸、網戸を備えるなどの場合)、柱の外側に縦枠、敷居・鴨居を取付ける。 註 ⑥⑦の方法は、室内でも応用可能。外部ではレール・戸車式として、敷居に水勾配を付ける。

⑧ アルミサッシとする場合は、開口部の建具構成によって、内付け、半外付け、外付けを使い分ける。柱間に障子などを建て込む場合は外付け、ブラインド、カーテンなどの場合は半外付けまたは内付け。 註 アルミサッシは、外部大壁納めを前提にした断面であるため、外部真壁の場合、いずれを用いても、取付け用のつば部分が露出する。つばを隠すには、枠の外側に見切縁を取付ける。                        

 

「付録2-2」へ続く               


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