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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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「はじめに,Ⅰー0日本の自然環境」 日本の木造建築工法の展開

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「日本の木造建築工法の展開」   

PDF「はじめに,Ⅰー0日本の自然環境」 A4版11頁 (PCの方は、左上の「開く」をクリックし、さらに「Word Onlineで開く」をクリックしてください。)

 ・・・・
  けだしわれわれがわれわれの感官や 
  風景や人物をかんずるやうに
  そしてたゞ共通にかんずるだけであるやうに
  記録や歴史 あるいは地史といふものも
  それのいろいろの論料といつしよに
  (因果の時空的制約のもとに)
  われわれがかんじてゐるのに過ぎません
  ・・・・
        校本 宮澤賢治 全集 第二巻 「春と修羅」より

 

主な参考資料 原則として、図版には引用資料名を記してあります
季刊カラム №78(新日本製鉄株式会社)  理科年表(丸善)   地震の揺れやすさマップ(内閣府) 注 インターネットで公開   世界地図帳(平凡社)  日本大地図帳(平凡社)   利根川と淀川 小出 博(中公新書) 注 1975年初版 現在絶版
1/5万および1/20万地形図(国土地理院)   滅びゆく民家 川島宙次(主婦と生活社 絶版)   日本の民家3 農家Ⅲ、同 民家1 農家Ⅰ、同 6 町家Ⅱ(学研 絶版)   古井家住宅修理工事報告書(古井家住宅保存修理委員会)   日本建築史図集(彰国社)   日本の美術 №80、№196(至文堂)   奈良六大寺大観 法隆寺一、東大寺一(岩波書店)


 

はじめに  

 今から30年前の1980年(昭和55年)10月、新日本製鉄株式会社の広報誌「季刊カラム №78」に、桐敷真次郎氏(建築史家、東京都立大学名誉教授)が「耐久建築論――建築意匠と建築工法のあいだ――」という一文を寄稿し、建築の耐久性の確保の必要を論じています。
 木造建築の耐久性についても一項目を設けて触れられていますが、この30年前の一文は、いわゆる100年住宅、200年住宅が話題になっている現在こそ、耳を傾けてよい内容と言えるでしょう。
 そこで、木造建築の耐久性について書かれた部分を全文引用紹介します。 
要所をゴシック体(ブログでは太字)にし、傍点(茶色)を振った以外は原文のままです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
木造建築の耐久力
 われわれは、伝統的日本建築には耐久力がないことを無造作に常識化している。これは、鉄筋コンクリート造は耐久力があるという常識の裏返しである。
 しかし、事実はそれほど簡単ではない。日本建築といっても、社寺と住宅とは異なるし、住宅といっても、本格的な書院造や民家と、貸家・建売り・バラックの類とはまるで違う。
 しかし、ふしぎなことに、建物の維持管理には一定の通則があるようで、毎年の点検、10年毎の小修理、30~50年毎の大修理、100~300年で解体修理というのが一般的な手入れの仕方である。社寺・宮殿のような文化財建造物でも、ほぼ似たような数字があげられている。
 ていねいな維持管理をすれば、木造建築の寿命もかなりのものとなるのである。
 わが国の伝統建築では、このような手入れや修理がしやすいような工法が用いられてきた。
 例えば屋根であるが、瓦もタルキもはずしやすいようにつくられている。また柱も、腐りやすい下端部は根継ぎによって比較的簡単に補修できる。日本壁、ふすま、障子、タタミ、押縁下見に至っては、始めから定期的に修理、或は更新されることを前提にしている。適切なメンテナンスと結合されれば、伝統的日本建築はやはり耐久建築なのである。
 これに対して、現行の木造建築は、始めから耐久性を放棄しているように見える。当座の強度だけを問題にし、しかも、それを法的に、或は技術的に正当化しているのである。
 まず柱が4寸(12cm)角以下でもよい、10㎝角でもよいと、むしろ伝統規格より弱化させている。これは構造的な面ばかりでなく、建具のおさまりが無理になるという点からも改悪であろう。
 まして、耐久力の劣る外国材を用い(原註)、合理化と称して柱数を最小限にすれば、耐久力は更に落ちる。柱を細くした結果、厚い貫が通せず、代りに筋違い(すじかい)を奨励した。これも柱の上下を切り欠き、桁を突き上げ、結局金物を使えという結果になってしまう。
    原註 これは現在(1980年当時)輸入されている外国産木材のことで、伝統的西欧建築に用いられているオーク材は300~500年の耐久力がある。
 金物を多用せよというすすめには、始めは心ある大工たちが強く反抗した。金物をできるだけ用いないことがよい仕事のしるしだったからである。
 日本では「釘を全く使っていない」というのが、建物の優秀性をあらわす表現だった。釘を全く使わない木造建築などあるわけがないが、金物をやたらに使ってようやく立っているような木造建築は下等であるという事実はよく表現されている。
 更に、防火性を高めると称してモルタル塗りを奨励したが、モルタル塗りの厚さが薄すぎて、亀裂による浸水が軸組を傷めてしまう。モルタル塗りは少なくとも3cm以上の塗厚がなければ耐久性がなく、日本でも大正・昭和初期にはそのように行われていた。
 また最近は、断熱性を高めると称して、壁のなかにやたらに詰物をすることが流行している。軸組が早くむれて早く腐るほうがよろしいとしているような状況である。
 どんな建物にも布基礎と土台を入れるという実務も耐久力を落している。布基礎にボルトで緊結された土台は、腐朽してもまともに入れ替えることができない。そのうえ、一般に行われている布基礎の規格程度では、不同沈下を起こしやすく、起こしても直しようがない。せめて土台だけは檜の4寸角としたいが、そのようにしている住宅を見ることは殆どない。わずか2間か2間半のスパンに鉄梁を組み込んでいる住宅などをみると、わが国の木造建築の衰退堕落もここまできたかと痛感するのである(引用者註 この部分は、1980年当時の基準や状況を基にしての言である)。
 屋根を軽くせよという一言で、鉄板葺きを流行させたのも同じ傾向である。正直に見れば、今日でも瓦にまさる葺材はないことが誰にもわかる。鉄板葺きのメンテナンスの苦労と費用を考えれば、瓦葺きの維持の楽なこと、耐候性、雨音防ぎ、落着きと重厚さなど、多くの長所が明らかである。
 第一、瓦葺きであるか、ないかで、大工の評価や意気込みがまるで違う。鉄板葺きであるというだけで、心ならずも気が入らず、手を抜いてしまうのである。しかし、瓦葺きが断然すぐれているという建築家の発言を聞いたことがない。確かに鉄板葺きは勾配をゆるくできるので、屋根のおさまりが楽になる。だが、緩傾斜の屋根は台風に弱い。風による屋根の吸い上げや、軒先のあおりを防ぐため、またしても手違いカスガイなどの金物でタルキを留めなければならない。雨押えを鉄板でするのも悪いプラクティスのひとつである。雨押えの取り替えは容易でないから、当然銅板を標準工法とすべきであるのに、銅板をぜいたく品のようにみなすのはおかしいのである(引用者註 この部分も、1980年当時の基準や状況についての言)。 
 どの国のどの時代にも、一般建築の良心的な規格や標準工法というものがあるが、以上のような明々白々たる技術的低下、水準の引下げを公然と行い、それを進歩と考えている国は、残念ながらわが国ぐらいしか見当たらない。
 もちろん表向きの理由には、耐震性と防火性能の向上という大義名分がある。布基礎を入れ、土台を入れボルトで緊結し、金物を多用し、屋根を軽くすれば、確かに耐震性能は上る。しかし、所詮たいしたことはない。モルタルを塗り、鉄板や石綿板で蔽えば、確かに防火性能は高まる。しかし、これもたいしたことはない。耐震防火のためだけに、耐久力と意匠を犠牲にしているからである。
 建築にとって、耐震・防火・耐久力・意匠のいずれも大切な項目である。
そのなかで、むかしから「便利・耐久力・意匠」といわれている建築の三大項目の二つまでを犠牲にして耐震防火を達成したところで、建築学の進歩とはとうてい言い得ない。現に日本住宅の建築的水準は、設備・備品を除いて、史上最低のみじめさに低迷している(引用者註 1980年代の状況)。
 ローコストの住宅を提供するという名目は、社会的にはいかにも立派で、大衆にはアピールするかもしれないが、建築的には良心的ではない。建築は高価なものだから、より耐久力があるようにつくるという方がよほど健全である。このように考えれば、現代といえども、それほど多種多様の工法が残るわけではない。良心的で健全な建てかたとは、かなり限られた手法となるはずである。これが意匠にも反映する。健全な工法から生まれてくる意匠だけが健全なのである。日本の木造建築の再生はそこからしか現われないだろう。しかし、そうした耐久建築の研究がどこかで行われているという形跡さえ、いまは全くないのだ(引用者註 現在の状況は、1980年代よりも更に悪化しています)。

 

Ⅰ-0 日本の自然環境・・・その特徴

1.日本の地形・地質 

 縄文期は、東北日本(関東以東)が西南日本に比べ栄える。
弥生期になると、逆転し、西南日本が栄えるようになる。
この変化は、地質、地形、地勢の違いが影響していると考えられている。                                                                

       

 

           

大地形区  A1 北海道主部内帯   A2 北海道主部外帯   B1 東北日本弧内弧   B2 東北日本弧外弧   C1 伊豆小笠原内弧   C2 伊豆小笠原外弧   D1 西南日本内帯   D2 西南日本外帯   DC1 中央日本西帯(中部山地)   DC2 中央日本東帯(関東)  E1 琉球弧内弧   E2 琉球弧外弧   日本の地形区分理科年表2006年版(丸善) より


  東北日本の地質は第三紀、四紀の若い岩層が多く、西南日本では古生層、中生層、花崗岩類などの古い岩層が多い。また、東北日本では第三紀以降、火山活動が激しく、それに関連し、第四紀層の広大な平原が発達する(関東平野など)。

  つまり、日本列島の地質は、西南日本は古い岩層でできているのに対し、東北日本は、この古い岩層の基盤の上に、新しい岩層が堆積したもので、その過程で起きた火山活動にともなう噴出物がさらにその上を覆っている(関東ローム層など)。東北日本の山間部に地すべり地域が多いのは、そのためである。

 この両地域の地質の特徴は、畑地の面積に示される。すなわち、畑地は東北日本の方が多い。

      小出博著 利根川と淀川(中公新書) より
  

 


2.ランドサット画像による日本の地勢  日本大地図帳 1994年版(平凡社)より
[ ランドサット画像の色 ] 東海大学情報センター 中野良志氏の解説による
 樹林や草で覆われているところ:明るい赤       裸地が増えまたは枯れ始める:ピンクや白っぽい肌色     乾いた裸地や稲刈り後の水田:白く明るく見える    火山の山頂などの裸地:濃い青    水の張られた水田や都市:暗い青~青系の色      紅葉時の森林:黄色    都市:中心部が濃い青で、周辺部は淡い青になる。 都市の青の中の赤は公園や緑地    雲:白く、黒い影が北西側にある  雪:白い

  

   

 

 


3.気候・・・・各地の気象 理科年表2006年版(丸善)より抜粋

          

         奈良と西安では、平均気温、平均湿度は大差ないが、年間降水量が著しく異なる(西安は奈良の約40%)。

 

 

 4.地震
a 地震の伝わり方 地震の揺れやすさマップ(内閣府)より 

 地震の揺れ方は、表層地盤の状況によって異なります。
 建物を建てるにあたって、建設地の選定が重要である理由の一つです。

       

 

b 表層の揺れやすさ 地震の揺れやすさマップ(内閣府)より

         

 


 参考 表層の揺れやすさと微地形区分(東京都の場合) 地震の揺れやすさマップ(内閣府)より 

                               

 

       

 東京地方のランドサット写真(6頁)と、上記2枚の区分図(地震の揺れやすさ、微地形)とを対比すると、現在の東京では、人口が極めて揺れやすい地域に集中していることが分ります。

 

c 日本の地震源の分布  理科年表2006年版(丸善)より

 地震の震源と地質・地形が大きく関係していることが、5頁の地質構造図、地形区分図との対照で、分ります。

 建物の地震への対応は、全国一律ではなく、建物の建つ地域の特性に応じて勘案するのが妥当な方策と言えるでしょう。   古来、日本では、それぞれの地域の特性を十分認識して、その地域なりの方策を採っていたと考えられます。   地盤の悪い土地に建てる建物と、良い土地に建てる建物とを、同じに扱うと不合理な点が多々生じることは明らかです。

     

参考 世界地震分布図  理科年表2006年版(丸善)より  

     

 

 


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