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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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この国を・・・・13: 無 識者

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[リンク先追加 22日 12.26]
今日22日の毎日新聞(毎日jp)の記事は貴重です
  「この国と原発・第四部−1
  「この国と原発・第四部−2
   いずれ、web上からは消えるかもしれません。
   もし、手に入れることができるのでしたら、新聞をご購入ください。[22日 12.26]

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1990年の秋に撮った写真が出てきました。
山梨県東部、笛吹川上流の秩父に抜ける街道沿いにある総2階建ての養蚕農家。その妻面です。
最近も訪れていますが、少なくなった印象は否めません。しかし、まだかなり残っています。
これは棟持柱方式ではありませんが、その方式の建物もまだ健在です。
おそらく、養蚕が盛んだった明治初期の建築だと思います。

この写真とともに、群馬県や、山梨県西部、白州町(現在北杜市)あたりで撮った養蚕農家の写真も出てきました。
秩父山塊を囲む群馬、山梨、長野、そして埼玉・秩父、東京・奥多摩地域の養蚕農家の建築は、互いに大きく関係があったようです。1990年ごろ、仕事の関係もあり、一帯を歩きまわったことがあり、どれもそのとき撮ったもの。
定かでないものもありますが、いつか紹介したいと思っています。

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福井・大飯(おおい)原発の「ストレステスト」についての「評価委員会」が開かれたそうです。
その「結論」の報道は二種類あり、どちらなのか定かではありません。
つまり、「テストの『方法』は妥当であった」という報道と、「テストの『結果』は妥当であった」という報道がありました。具体的にはさっぱり判りません。委員会の審議「内容」についての詳しい報道がないからです。いずれにしろ、どちらの場合も、妥当とする判断(これを「評価」と呼ぶのだそうですが)の根拠については詳しい説明はありません。

この委員会が、会場内での一般の傍聴を認めるかどうかで混乱したことは、そして最終的には予定を数時間遅れ、密室でつまり非公開で開催されたことは周知の事実です。
この場合も、非公開にする理由は説明がありません。所管大臣は「科学的な専門家による議論が平穏に開催できないことは容認できない」と非難したそうです。一般の傍聴を認めよ、という見解は容認できない、と解釈してよいのでしょう。

何かと言うと、「有識者」にお尋ねする、これが現在日本の常道になってます。
「有識者」、またの名は「専門家」。

当然、こういう「語」がある以上、「 無 識者」がいていい。

では、「 無 識者」は、何も分らず何も知らない者・人間なのでしょうか。

「有識者」は、何についても「識」がお在りなのでしょうか。
そんなはずがない。
たとえば、先日のTVで、地震の「専門家」が、今回の地震を通じて、他分野との交流が如何に必要か、痛感した旨、話しているのを聞いて、「驚き」を禁じ得ませんでした。
その場合の他分野とは、地質学。
地層には、過去の大地の変動が刻まれている、もちろん数千年を越える年月の・・。
その「成果」を知らなかった、という。
何でも、これまでは過去100年ほどの地震の発生状況を「精密に」検討し、地震発生のメカニズム理論を構築していた、そして、それによって各地域の地震の発生確率を「評価」していた、と言うのです。
もしかして、この日本で地震が発生するようになったのが、最近のことだ、などと考えていた?
あるいは「精密な」データが得られるものだけで(データの無いもの、得にくいものは無視して)、「理論」を構築していた?1000年も前の地震のGPSデータなんか、無い、ゆえにデータ化できない、ゆえに「捨象(しゃ しょう)」する・・・(無視黙殺することを捨象とカッコヨク言った時代がありました!)。

このTVを見ていて、私は、明治以降に生まれた「建築」の「専門家」たちの、自国の建築についてまったく「無知」であった事実を思い出しました。
その「無知な有識者・専門家」の後裔たちが、「専門」「有識」の名の下でつくりだしたのが、現下の「耐震《理論》」なのです。
彼らはいまだに日本の古建築が、当然木造ですが、数百年、地震に遭っても壊れていない、という厳然たる事実を、まったく説明できていないのです。
ことによると、それ以前に、そういう事例の存在さえも知らないのかもしれません。
   兵庫県の西部に三木という場所があります。そこに例の e ディフェンスなる振動台実験場があります。
   ここで実物大構造物実験を実施したり、あるいは見学する「専門家」で、
   そこから僅かな距離にある建築後800年ほど、壊れることなく建っている木造建物を
   見に行かれた方はあるのでしょうか?はなはだ疑問です。
   それが浄土寺・浄土堂です。
   蛇足ですが、私は何度も浄土寺・浄土堂は訪れていますが、e ディフェンスには行ったことがありません。

これらの木造建築が健在である理由を説明できない「耐震《理論》」というのは、はたして「理論」と言えるのでしょうか?
もしも、現在、究明中なのだ、というのならば、
そういう未完の状態の「成果」をもって、現実の建築を差配するような基準をつくってはならない、
と思うのが、普通の人の、つまり「 無 識者」の真っ当な感覚だろうと思います。

「数百年、地震に遭っても壊れない」建物をつくってきたのは、現代の「有識者」たちのいう「識」はもっていない「普通の人たち」なのです。もちろん「構造力学」も「構造計算」も知らないし、ましてやコンピュータを持っていたわけでもありません。そしてまたもちろん、法令の定める基準や規定があったわけでもない。
それでも、彼らにはそういう建物をつくれたのです。これは歴史的事実。
当然、頻繁に地震に遭うことは知っていました。彼らは、現代の「有識者」よりも、地震について、数等「よく分っていた」のです。
ここで当然、「分る」ということはどういうことか、あらためて考え直さなければなりません。

   参照 一昨年、「工学」特に「建築」の世界での「分る」ということの「理解の実態」について、書きました。
       ご覧ください。
    「観察、認識、そして『分る』ということ−1
    「観察、認識、そして『分る』ということ−2
    「観察、認識、そして『分る』ということ−3

地震や耐震のことは「私たち「有識者」に任せなさい、私たちのご託宣を信じなさい、などと言うのは止めてもらおうではありませんか。

そうではなくて、
地震はこんな具合に起きている、こんな現象を惹き起こしている、こんな具合の被災を生じる、あるいは、こういう場合は健在である・・・、災害に対して人びとの間ではこんな行動が見られた・・・、こういった諸般の「事実」を、(仲間うちの学会ではなく)広く世のなかに公開する、
そうであったとき、はじめて「有識者」の「尊称」を与えられてもおかしくはありません。
各地の「古老」たちこそ、本当の「有識者」だったのです。

そして、私たち個々も、誰かの言い分に頼る、頼り切る、言い換えれば「楽をしよう」などという考えを採りさえしなければ、
つまり、
私たち自らが自らの「識」の領域を「開拓」するならば、
王様はハダカだ、と自信をもって言えるようになり、
その結果、「有識者」たちが「有識者」を自称することなどできなくなる
そのように私は思っています。

今から40年ほど前、大学闘争の盛んだったころ、タコツボ化という言葉がよく使われました。
蛸には申し訳ないのですが、壷に潜り込んでまわりを見なくなる、見えなくなっている「研究」「研究者」「専門」への若者たちからの批判の言です。
   蛸は、見たくないために蛸壺に入っているのではありません。
   そこを拠点に自由自在に行動しているのです。
   つまり「まわり」「世界」「 SURROUNDINGS 」を「認識」している。タコツボ化したら生きてゆけない!

TVを見ていて、あの頃とまったく変っていない、ことによると更にひどくなっているのではないか、もしかしたらコンピュータの普及がそれを助長してはいないか・・・、そんなことを考えました。
つまり、
私たち固有の「感性」が失せてしまっている・・・。
真っ当な「感性」をもっていたなら、私たちのご託宣を信じなさい・・、などという「発想」はもちろん、あれは「想定外」などと言って済まそう・・・、などとは思わないはずではないですか。

私は「 無 識者」で居続けたい、と思っています。


追記 前にも紹介した一文を転載します。

   ・・・・・・
   彼の言葉のなかで、私にいちばん強い印象を与えたのは、
   廊下を歩きながらスタインバーグが呟くように言った言葉である。
   その言葉を生きることは、
   知識と社会的役割の細分化が進んだ今の世の中で、
   どの都会でも、
   極めてむずかしいことだろう。
   「私はまだ何の専門家にもなっていない」と彼は言った。
   「幸いにして」と私が応じると、
   「幸いにして」と彼は繰り返した。 
   
      加藤周一「山中人?話・スタインバーグは言った・・・より」


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