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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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「日本家屋構造・下巻・参考篇」の紹介−2・・・・「(二)天井の部」

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今回は、「(二)天井の部」の項の紹介です。図版は二図、解説文も僅かです。今回は、各図とその解説をA4一枚、都合二枚にまとめました。

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[補注追記 23日 9.45][字句訂正 23日 15.10]

はじめに一枚目、第十五図と解説。現代語読み下しを付けます。

第十五図は、天井の種類を示す。
図甲は、普通の平竿縁の竿縁天井の竿縁と天井板の張り方。
    天井板は、矧ぎ目を床に対し直角に置く。
    ? 真打ち(しんうち) : 天井板の矧ぎ目を柱の芯に納める方法。
    ? 手挟み打ち (たばさみ うち): 板幅の中央に柱または束柱などを納める方法。

   補注 [補注追記 23日 9.45]
    これは天井板の割付け法の解説ですが、竿縁は、柱の芯の通りに合わせるのが普通です。合わないと、天井板よりも竿縁の方が気になります。
    しかし、柱位置が図のように壁〜壁の中央:二分の一の位置にあるときは容易ですが、
    柱が中央にないときは、簡単ではありません。壁〜壁を均等に割ったとき、竿縁位置が柱の通りに合うとは限らないからです。
    一定程度は、廻縁の柱からの出で調節することも可能ですが、かなり無理があります。
    この解決のために考案されたのが「蟻壁(有壁)(ありかべ)」と言われています。蟻壁長押および廻縁の出で調整する方法です。[字句訂正 23日 15.10]
    これについては「園城寺・光浄院客殿・・・・ふたたび」で触れています。
   

図乙は、廻り井桁組と呼び、四畳半の小座敷あるいは便所などの天井に使うことが多い。
    竿縁を井桁に組み、周囲には神代杉などの杢板、中央部には柾目板を用いる。
図丙は、網代組天井。
図丁は、吹寄せ竿縁天井。竿縁を吹寄せにする。天井板は杢板、または樋舞倉矧ぎ(ひぶくら はぎ)で一枚板にした杉柾板を用いると見栄えがよい。
      註 吹寄せ : 二本ずつ一組に並べあること。・・・(「日本建築辞彙」による)
      註 神代杉 : 水土中に埋もれて多くの年数を経た杉材。往古、火山灰中に埋没したものとされる。
                蒼黒色で堅実。伊豆、箱根などで産出・・・。(「広辞苑」による)
      註 桶舞倉糊矧 : 「日本建築辞彙 新訂版」の「ひぶくらはぎ」では、「桶部倉矧」と表記。下図のような板の矧ぎ方との説明がある。
         板戸などで使うようですが、私は実物を見たことがありません。
         桶舞倉糊矧とは、この矧ぎ方で糊を併用するものと解します。
         
         ただ、「ひふくら」「ひぶくら」の意はもとより、どちらの漢字表記も、字義が分りません。
         なお、これは「日本家屋構造・中巻の紹介−22」所載、小便所の腰壁仕様の註の再掲です。
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二枚目は第十六図とその解説。

図甲は、折上げ格天井の伏図(見上げ図)。
    組んだ格子の中に子組(小組:こ ぐみ)という組子(くみ こ)を嵌め、その上に天井板を張る。
    その仕口・構造などは「構造編・天井の構造」に詳述してある(「『日本家屋構造』の紹介−18」参照)。
図乙は、平格天井の伏図(見上げ図)。
    図は、杢板、柾板などを、縦横交互に張った例。絵・模様を描いた天井板を嵌め込む場合もある。
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「二 天井の部」は以上ですべてす。

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蛇足

「部屋」あるいは「室」または「居住空間」は、「壁」と「床」、そして「天井」とで囲まれる、そして、それを「包む」:「内包する」のが「架構(あるいは「構造」、もしくは「構造体」)」であり、その総体が建物である、というのが、建物(あるいは建築)に対する現在の「一般的な理解・認識」と言ってよいと思います。
もっと端的に言えば、この「理解・認識」は、「舞台装置:背景を形づくる大道具」とそれを「支えている骨組」、と例えるのがいいかもしれません。つまり、各面は「書割」である、ということになります。

「書割」は、まったく「任意」です。たとえば、いわゆる「洋風」にするのも「和風」にするのも、いわば自由自在です。
    最近の建物づくりは、一般の建物はもちろん、いわゆる「建築家」のつくるそれも、ほとんどこのやりかたでつくられている、そのように私には思えます。

ところで、私たちは、そのような「書割」でつくられた舞台を観ているとき、私たちは、いったい何を見ているのでしょうか。
「書割」の各面を見ているのでしょうか?
そうではないはずです。私たちは、「書割」そのものではなく、「書割で囲まれた場所」を観ている、「その場所のいわば雰囲気」を「感じている」のではないでしょうか。「書割」は、その場の「臨場感」の造成のためにある、といえるかもしれません。
つまり、私たちは、「書割」そのものを観ているのではない、ということです。

私たちの日常の暮しの場面でも同じです。
私たちは常に何かに囲まれています。surroundings です。
そのとき、私たちは、私たちを囲んでいる「もの」を「見てはいます」が、決して「観てはいない」はずです。簡単に言えば、壁面や天井面・・・そのものを観ているのではない、ということです。
ここで、「見ている」というのは「視覚に入っている」という単純な意味、「観ている」とは、いわば、「味わっている」「鑑賞している」というような意味、としてご理解ください。
つまり、私たちは、そういう各面がそこにつくりだしているいわば「雰囲気」を「観ている」ということです。
   このことをうまく表現することは非常に難しい。現代風に「評価」して表現することは甚だ難しい。
   なぜなら、「その場の雰囲気を感じる」などということは、現代のいわゆる「科学的分析」手法には適しない「構造」の事象だからです。
   このあたりについては、これまでも「くどく」書いてきましたので( ex「建物をつくるとはどういうことか」シリーズなど)、ここではあえて触れません。
   註 「建物をつくるとはどういうことか」シリーズは以下の内容です。
     第1回「建『物』とは何か」
     第2回「・・・うをとりいまだむかしより・・・」
     第3回「途方に暮れないためには」
     第4回 「『見えているもの』と『見ているもの』」
     第4回の「余談」 
     第5回「見えているものが自らのものになるまで」
     第5回・追補「設計者が陥る落し穴」
     第6回「勘、あるいは直観、想像力」
     第7回「『原点』となるところ」
     第8回「『世界』の広がりかた」
     第9回「続・『世界』の広がりかた」
     第10回「失われてしまった『作法』」
     第11回「建物をつくる『作法』:その1」
     第12回「建物をつくる『作法』:その2」
     第13回「建物をつくる『作法』:その3」
     第14回「何を『描く』のか」
     第15回「続・何を『描く』のか」
     第16回「求利よりも究理を」
     第16回の続き「再び・求利よりも究理を」


たとえば、「天井の意匠」に凝っても、日常の暮しで、つまり、一般の住家で、誰がその「意匠」そのものを観るでしょうか?

私たちが天井を見上げ、しみじみと「観る」というのは、たとえば仏堂に入り、仏像を見上げたその先の天井に目が行ったとき、などではないでしょうか。
見上げるような仏像ではないとき、多分、私たちは天井にまで目を遣らないはずです。
多くの場合、仏像の頭上には、暗い空間が覆っている、そのように見えているはずです。それで何も問題ない。

もしも天井の意匠に凝るとすれば、その場を「ある感懐を生む場所:ある雰囲気の場所」とするために、天井の「効果」が必要だ、と思われたときのはずです。
それに役立たない「意匠」は無意味なのです。

このことは、壁面についてもまったく同じです。


今では、天井を設けることは、至極あたりまえのことと思われています。
しかし、人がつくりだした居住の場、つまり「住まい」に、原初から天井があったわけではありません。
そしてもちろん、「書割」とそれを「支えている骨組」、というような「理解・認識」があったわけでもありません。

このあたりについて、すなわち、日本の建物づくりに於いて天井が出現する「過程」について、かなり以前に触れています。下記をご覧ください。
天井・・・天井の発生、その由縁
日本の建築技術の展開−6
日本の建築技術の展開−7

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