Quantcast
Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
Viewing all articles
Browse latest Browse all 514

「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介−24 :附録 (その9)「仕様書の一例」−6(終回)

$
0
0


「二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、現在、仕様の具体的内容部分(2〜6ページ)を紹介中です。

           **********************************************************************************************************

[文言改訂 12日 8.20][文言改訂 12日 10.20][誤字訂正 12日 11.30]

紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
今回は、その最終回、6枚目の建具、畳などの仕様の項の紹介になります。

はじめに原文。

以下、見出しを付け、現代語で読み下します。

〇 雨戸
 材料 
  框 : 樅
  鏡板 : 杉 四分板 無節 三枚矧ぎ 7本桟とし、板は上下とも桟で止める。
 仕様 
  閉めたとき、戸袋寄りの最後の建具に、上げ猿、落し猿を仕込み、また、戸相互の召合せ部には、召合せ决りを設ける(下図の雨戸建具平面詳細図参照)。
  建具は実際に建て込み、建付けを調整する。 
    註 原文の「・・・七本桟上み下も止め」は、「7本の桟のうち、上下は框としてつくる」という意に解しました。
        近世の雨戸は、通常、上框を設けず、両側の縦框を角のように出し先端を决り一筋鴨居の溝を滑らす方式を採っています。
        板も、上桟より上部にはねだし、溝を滑ります。
        原文には、材寸などが指示されていません。
        そこで、一般的な雨戸の事例の参考として、滋賀県大津の近世の商家旧西川家の雨戸の詳細を転載します。
        旧西川家は、宝永3年:1706年に建設された近江商人の代表的な商家で、内法高五尺七寸の当時の標準的な矩計で計画されています。
        それゆえ、雨戸なども、当時の標準的な仕様でつくられていると考えてよいと思います。
        なお、図は、滋賀県 刊「旧西川家住宅修理工事報告書」より、筆者が抜粋し編集したものです。
        はじめに、旧西川家の平面図(図の上方が北東、下方が南西)と、雨戸詳細図。
        下段の雨戸・平面詳細図は、平面図の赤枠内に相当します。
        右側の図は、建具:平面詳細図・立面図・組立図です。材寸は、当時の標準的な寸法でしょう。

    註 上げ猿、落し猿 : 雨戸の戸閉装置。建具に仕込んだ扁平の棒を敷居、鴨居に彫った穴に差し、戸の動きを止める(下図参照)。
      下図は前掲修理工事報告書から、左が上げ猿、右が落し猿の立面図。これらは縦猿とも呼ぶようです。
      上げ猿の場合、棒の下るのを避けるため、図のように横棒を飼います。下げ猿に設けることもあります。
      なお、建具相互をつなぐ横猿を設けることもあります。建具を一枚ずつ外されないようにする工夫です。
      横猿は、上の雨戸建具詳細図・立面図に描かれています。
      猿の実物は、各地の保存民家や博物館、資料館などで見られると思います。
        この装置を、なぜ猿と呼ぶかについては、諸説あるようです。
       

      召合せ决り : このほかに、縦框に台形の凹凸を削りだす印籠决り(いんろう しゃくり)と呼ばれる方法があります(現在はこれが普通では?)。
        これは、印籠の蓋のように噛み合わせることからの呼称のようです。
 
        次図は、一筋敷居・鴨居、戸袋:断面詳細図です。

      蛇足 「旧西川家住宅修理工事報告書は、建具の詳細図が載っている稀有な修理工事報告書の一ではないかと思います。
          詳しくお知りになりたい方は、同書の「調査事項」(122〜187頁)をご覧ください。
            国会図書館の複写サービス(当該部分を指定)が受けられます。
                
〇 便所の開き戸
 材料 : 雨戸に倣う。すなわち、框は樅、鏡板は杉 四分板 三枚矧ぎ、舞良戸(まいらど)に仕立て、肘壷にて具合よく釣り込む。
    註 舞良戸 : (板戸の)表裏に幅6〜7分内外、厚さ4〜5分程の木(舞良子)を横に(繁く)打付けた板戸を言う。縦に打つ場合もある。各種の意匠がある。
             (「日本建築辞彙」ほかによる)
〇 表入口の格子戸
 材料 すべて檜
  縦框 : 見付 1寸2分×見込 1寸  下框 : 成・丈 1寸4分×見込 1寸  上框 : 成・丈 1寸6分×見込 1寸
  框には面を設け、上下の框は縦框に二枚枘で差し、面は隅で「面腰(めんこし)を押す」。
    註 面腰を押す 下図のようにつくり納めることをいう。(「日本建築辞彙」による)
       二枚枘は雨戸の組立図参照。
        
  竪子(たてご) :縦の格子。 見付 7分×見込 8分 大面取り 15本。上下は框に枘差し、5本の貫を通す。ただし、中央の貫は掛子彫をして割貫とする。
  なお、各部の仕口は、糊付けを併用する。
    註 掛子彫、割貫については、前回に説明。
    註  「押糊入れ」「押糊飼い」という表現は、職方の常用語なのでしょうか。
       「面腰を押す」という表現を含め、「押す」という動詞には、職方独自の意が与えられているのかもしれません。「押角」も?
       
〇 明り障子(表八畳間縁側境4枚 腰板付、表出格子4枚 水腰、玄関2枚)
 材料  
  縦框 : 見付 1寸3分×見込 1寸  下框 : 成・丈 1寸3分×見込 1寸  中桟 : 成・丈 9分×見込 1寸  上框 : 成・丈 1寸6分×見込 6分 すべて檜
  組子 : 杉柾 見付 2分×見込 5分5厘 横繁
  腰板 : 杉柾
 框、桟の仕口は包み込枘差しとし、糊付を併用して組立て、建付けを調整後、引手張りも含め上美濃紙を張る(貼る)。
    註 引手張り : 引手にあたる部分の一ますだけに、紙を反対側に張る。その部分だけ凹部になり手が掛けやすくなる。[誤字訂正 12日 11.30]
             表側の紙を×形に切り、折り返し反対側の紙に張り付け、×形が見える場合が多い。
〇 明り障子(その他の個所)
  材料は樅の上等品を用い、框材寸は前者に倣い、組子は見付 2分5厘×見込 5分 、紙張り同前。
    註 腰板付障子と水腰障子の例を前掲「旧西川家修理工事報告書」より、抜粋転載させていただきます。

      左が腰板付。ただし、この例は腰板に目板様の格子がついています。原文の腰は板を矧いで嵌めてあるだけ。
      右が水腰。腰のない明り障子を水腰と呼ぶ。その理由は「腰を見ず」つまり腰がない、という説があります。
        原文に「水腰付」とありますが、普通は「付」の字は付けないのではないでしょうか。
      原文にある包み込枘差しとは、組立図のように、横材の枘を框を貫かず、框内に納める方法のこと、と推察します。
        以前に紹介の武家・横田家の飛貫にも「包み枘差」が使われていましたが、その場合は、「地獄枘差し」と同義と考えるのが妥当と判断しました。
        しかし、このような建具の場合は、上記の意と思われます。
〇 腰高障子(台所入口)
  材料は樅
  縦框 : 見付 1寸3分×見込 1寸  下框 : 成・丈 1寸5分×見込 1寸  中桟 : 成・丈 1寸5分×見込 1寸  上框 : 成・丈 1寸6分×見込 6分
  組子 : 6分角 横の組子(横子)を西の内紙の幅の二つ割で、縦の組子(竪子・縦子)は中三本を入れて組む。
          腰高は、内法高さの中央を中桟の上端とし、裏桟(見付 1寸×見込 6分)二本を設け、杉 赤身 無節板を糊で三枚矧いだ腰板を四周の小穴に
          嵌め 引手板ともども組立てる。
    註 美濃紙は美濃の国・岐阜県産の和紙、西の内紙は茨城県北部西の内産の和紙。
       明り障子の組子の間隔は、張る紙の寸法に応じていた。
〇 襖
  材料 椹(さわら)
  化粧竪(縦)縁 6分角、下桟 見付 7分×見込 6分、上桟 見付 9分×見込 6分、召合せ定木縁は蒲鉾形につくりだし、いずれも黒漆塗り仕上げとする。
  下地骨組 組子 見付 6分×見込 5.5分、力骨 見付 8分×見込 5.5分
        下地骨組は、縦3本、横11本とし、そのうち縦1本 横3本は力骨が兼ねる。
        隅は襟輪目違入りで糊を飼い木釘にて打付け、四隅に力板、引手部に引手板を切込み打付ける。
        竪縁は、上下を角柄を伸ばし、横縁上端にて切断し、現場に合わせ調整する。
    註 原文の「張付組子・・・」以下を、上記のように解しました。
       この説明に相当する襖の骨組図を学芸出版社刊「和室造作集成」より転載させていただきます。表示寸法はmm表記(18×16.5≒ 6分× 5.5分)。
       
  紙貼り(張り) 下貼りは骨縛り一度以上、下張り四遍仕上げ(都合五遍仕上げ)、上貼りは、唐紙(からかみ)を貼る。     
    註 骨縛り : 襖貼りで最下層になる紙貼りのこと。
       四遍、五遍⇒四回、五回の意
     
  化粧縁の取付け 貼り下地の竪縁に折釘を仕込み、化粧竪縁に設けた凹部を当て、上部から化粧竪縁の木口を叩くと折釘に刺さり下地竪縁に密着する。
              張替の時は、この逆、下部の木口を叩いて外す。[文言改訂 12日 10.20]
    註 襖各部の詳細図を、前掲「和室造作集成」より抜粋編集し転載させていただきます。表示寸法はmm表記。
   
   左上は、引違の場合の平面詳細、左下は召合せ部の「定木縁」の例(この図では「定規」と表記)。
   中央は断面詳細。右図は、化粧縁取付けの折釘(おりくぎ、おれくぎ。図では「合折釘:あいおれくぎ」と表記)化粧縁の納まり図。
   図の竪縁表記が化粧竪縁(黒い部分)。折釘は、下地側に打込んである。
  引手金物 上等品を用いる。
      
〇 畳
  畳床(たたみ どこ) : 八畳間二間は刺数(さしかず)十一通し、他の三間は九通しの品。
    註 刺数 : 畳床を糸で縫い締める針を刺す通りの列数の意と解します。どなたか、詳細のご教示を![文言改訂 12日 8.20]
  畳表(たたみ おもて) : 八畳間は備後(びんご)、他は「表前仝断早嶋表を用い」る。
    註 備後 : 備後(広島県東部地域)産の畳表。
       「表前仝断早嶋表を用い」の意不明。どなたかご教示を!
  縁(へり) : 紺(色の)縁の上等品。

〇 其の他 補遺
 工事中、不明な点が生じたときは、すべて係員の判断を待つこと。
 工事中は、指図に従い随時大掃除を行い、火の元を十分警戒し、指定場所以外の喫煙を禁じる。
 (請負工事のときは)請負人は工事進行中諸法規を遵守し、自己の怠慢より生じた諸損害はすべて請負人が負担する。
 工事に従事する人夫職人は従順にして勤勉な者とし、喧嘩口論を好む輩は一切従事することを認めない。
 以上は仕様の概略で本工事の程度を示したもので、明記のない個所であっても、建築上欠くべからざる工事は請負人の負担をもって指図通り施行する。


  [以上で「仕様書の一例」の紹介はすべてです。]

           **********************************************************************************************************

不明な点がいくつかありますが、ご存知の方は是非ご教示くださるよう、お願いいたします。
内容を理解するため、いろいろと調べることになり、「あらためての学習」になりました。もっとも、その分、時間がかかってしまい、恐縮しております。

「日本家屋構造」には、主に参考図からなる「下巻」があります。これをどうするか考え中です。 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 514

Trending Articles