「二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、現在、仕様の具体的内容部分(2〜6ページ)を紹介中です。
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[文補訂 6月1日早朝][蛇口枘の図追加 1日 9.45][文言追加 1日 10.30]
紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
今回は、その5枚目:出格子、雨戸戸袋、霧除け庇、雨押え、軒樋、下水、などの仕様の項の紹介になります。
ところが、今回分の原文に目を通していて、「日本家屋構造・上巻」の紹介が尻切れトンボになっていることに気づきました。
2012年12月21日の「『日本家屋構造』の紹介−18・・・天井の構造」に続き、まだ「庇し」と「戸袋」の項の紹介をしなければならなかったにもかかわらず、入院に取り紛れ、その紹介をせずに終わってしまっていたことに、あらためて気付いたのです。忘れるなんてボケたかな?・・・
そこで、今回の紹介に際して、その項に関わる図と解説を載せ、補うことにいたします。
はじめに原文。
以下、現代語で読み下します。なお、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けました。
〇 表 出格子
この解説は、平屋建て普通住家の事例についてなされているものと思われますので、その平面図と立面図を再掲します。
材料はすべて 檜 無節。
妻板 : 幅 8寸×厚 1寸2分 上々に削り仕上げる。
格子台 : 成・丈 5寸×幅 2寸5分。
鴨居 : 成・丈 2寸2分×幅 2寸5分。
格子台、鴨居とも、格子取付け用の穴、雨戸溝、左右の妻板への取付け用枘を刻み、妻板に差し合せ楔締めで固める。
註 格子台の参考図として、二階建ての二階に、下野庇上に設ける出格子の例を載せます。いずれも再掲です。
この図では格子台は庇上に立つ柱に取付けていますが、平屋建ての場合は、本体の柱に取付けた妻板に取付けます。
妻板の柱への取付けは、
丁寧な場合は、柱と妻板の間に数か所設ける太枘(だぼ)で固定する、
簡単な場合は、柱に小穴を突いておき、板を嵌め込み、隠し釘で取付ける
などが考えられます。戸袋の項であらためて触れます。
台輪 : 成・丈 1寸6分×幅 4寸。妻板より 1寸8分 外に出し、隅は留に納める。
註 台輪については、次項の戸袋の図を参照ください。
格子 : 見付 7分×見込 8分 削り仕上げ。1寸5分明きに立てる。
格子は、幅 7分×厚 2.5分 の貫を四通り差す。そのうちの中二通りは、掛子彫りをして割貫として差す。
註 原文の「中二通り掛子彫し割貫に差し通す」を上記のように解しました。
これは、下図の、貫を二つ割にして差す「割り貫」」「割り子差し」と呼ぶ方法のことと思われます。(図は「工作本位 建築の造作図集」理工学社 刊より)
「掛子彫り」とは、格子と貫に施す図のような細工のこと。「掛子」とは、段状の形をいう(⇒土蔵の戸の掛子塗)
これは、格子の間隔を正確均等に組むために考え出された技法と思われます。
残りの二通りの貫の位置は具体的にわかりません。適宜か?
なお、妻板があるので、格子を立てた後に貫を差すことはできませんから、格子を仮組みして、建具のように嵌めこむものと推察します。
出格子の戸袋 : 二か所とも檜 無節材、方立は妻板と同じ大きさ、仕様とする。
註 「・・方立大きさ妻板と仝断・・」の意が分りませんが、方立は、戸袋の戸の入口に立てる方立のことか?次項の柱建て戸袋の側面図を参照ください。
また、原文の「見付は仝木にて簓子に造り挿め込み・・・」の「見付」は、戸袋正面の下見板の「押縁」の意かと推察します。別解釈あればご教示を!
〇 表入口の戸袋
以下の説明のために、はじめに上巻の紹介のときに忘れた戸袋の項の原文を転載します(現代語読み下しは省略させていただきます)。
戸袋は、柱建て戸袋と妻板建て戸袋に大別されます。
なお、原文の表の戸袋は妻板建てと考えられます。
材料は、檜 無節。
註 原文の「木口前仝木・・・」は、このような意と解しました。なお、「仝木」のルビは「どうもく」の誤記と思われます。
妻板 : 厚 1寸2分。
上下長押 : 成・丈 3寸×厚 1寸2分。妻板に小根枘差し楔締め、糊を併用。
(戸袋正面の)板及び目板 : 杉 赤身 本四分板 無節 削り仕上げ。板は、妻板及び長押に彫った小穴に嵌めて張り立てる。
(板張り用の)中桟 : 杉 幅 1寸2分×厚 8分 削り仕上げ 四通り、妻板に寄蟻で取付け。
台輪 : 長押より外の出 1寸5分、隅は留納め。
戸袋の天井 : 杉 六分板 削り仕上げの上、張り立てる。
他の(横及び裏側の)戸袋、五ヶ所
妻板 厚 1寸板 上小節材を用い、上下の長押、皿板、中桟も同材を曳割り削り使用。
中桟は四通り設けるが、その内の中の二通りは寄蟻で取付け。その他の仕口などは、表の戸袋に倣う。
註 他の二通りは大入れでよい、との意と解します。
戸袋正面の板及び目板は 杉 四分板 上小節 を削り仕上げ、張り立て。
戸袋の屋根は、杉 厚 1寸板 を削り取付ける。
註 戸袋上部は、台輪をまわし天井板を嵌め込む方法と、上長押と妻板上に勾配付の屋根板を載せる方法があり、表以外は後者を採るものと解します。
〇 戸袋補遺
原文の図には戸袋の断面図がありません。「工作本位 建築の造作図集」(理工学社)から、抜粋、当原文に見合うように加筆・編集した図を下に載せます。
戸袋奥の妻板:戸尻妻板は、本屋の柱に隠し釘または引独鈷(ひきどっこ)で固定し(隠し釘の場合は、太枘を併用することを奨めています)
なお、この図のような引独鈷の実例は、私は見たことがありません。
入口側の妻板:手先妻板は、一筋敷居、一筋鴨居に取付けます(上掲の図参照、一筋敷居には渡り腮で掛け、いずれも隠し釘で固定)。
なお、戸袋の深さ:出は、雨戸収納枚数により決め、見込 1寸の雨戸の場合は、1寸1分×枚数 で算定(戸と戸の隙間を 1分と見なす計算)。
〇 霧除け庇
この項の説明のため、上巻の「庇し」についての解説原文を下に転載します(紹介を失念した項目です)。
腕木 : 松 無節 成・丈 3寸×幅 1寸8分 を削り、枘を刻み、楔を飼い(柱に)差し、堅める。
註 これは、地獄枘の意と推察します。
桁 : 杉 磨き丸太 末口径 2寸5分以上 上端を削り、腕木に取付ける。
註 仕口は、上巻解説文の「(腕木に)渡り欠きを施し、桁を渡り腮で腕木に納める」意と推察します。
なお、同原文の「蛇口枘差し」が不明です。
調査不足でした。前掲「工作本位 建築の造作図集」(理工学社)に図が載っていましたので、転載させていただきます。[蛇口枘の図追加 1日 9.45]
渡り腮の場合は、腕木の先端が桁より前に出る。蛇口枘は、腕木を桁外面に揃える場合の技法、と思います。蛇の口に似ているからか?
私が蛇口枘の経験がなかったので知らなかったに過ぎない、というお粗末でした! [文言追加 1日 10.30]
板掛 : 大貫 上小節 を幅 3寸に曳割り、削り仕上げの上、柱を欠き込み取付け。
板及び目板、垂木形 : 杉 板割 生小節(いたわり いきこぶし)を曳割り削り、正二寸釘にて張り立てる。
註 杉 板割(すぎ いたわり) : 杉板割は長さ二間、幅七寸〜一尺程、厚さは墨掛一寸、実寸は八分〜八分五厘程。
東京近傍にて単に板割といえば杉一寸板のことなり。 (「日本建築辞彙」より)
雨押え : 大貫を削り打付ける。
鼻柵(=鼻絡:はながらみ): 杉 小割 無節 を削り、庇板の先端より 1寸5分 ほど内側に板、目板双方に打付ける。
註 杉 小割 : 杉四寸角十二割または五寸角二十割なる細き木にして長さ二間なり。実寸は幅一寸、厚さ九分程のものなり。 (「日本建築辞彙」より)
外まわり土台上及び窓下、桁下端とも、杉 大貫 二つ割を削った雨押えを取付ける。
註 窓下の雨押えとは、下見板張り上の雨押え、桁下端の雨押えとは、縁側庇と桁の接点の雨押えの意、と解します(前回の矩計図を参照ください)。
持送り : 板割 を幅六寸、長さ一尺で絵様形(えようがた:模様を彫った形:別図参照)につくり、柱に取付ける。
註 持送りを設ける場所が具体的に示されていません。通常は出格子などに設けられますが、原文の出格子は妻板建て。ゆえに場所不明。
参考として、前掲「工作本位 建築の造作図集」(理工学社)から、持送り付出格子の図を編集の上転載させていただきます。
右側が雨戸付出格子の例で、原文の出格子は、これに相当するものと思われます。
ただ、原文の出格子には、屋根の反りはありません。
窓上の横板庇 : 杉 板割 生小節 幅 8寸 を削り仕上げの上取付け、猿頭(さるがしら)は 杉 大小割 の上端を鎬(しのぎ)に削り、一尺五寸間に打付ける。
註 猿頭(さるがしら) : 上図参照。
大小割(おおこわり): 墨掛 1寸5分× 1寸2分 の矩形断面の杉材、長さ二間。(「日本建築辞彙」による)
鎬に削る : 上端を屋根形に加工すること。上図参照。
下見板 : 杉 四分板 生小節 を削り仕上げ、羽重ね 8分以上で張る。
押縁 : 大貫 二つ割を羽刻みを施し、削り仕上げ、三尺間に打付ける。
〇 雨樋
軒樋 : 周長 9寸 の竹の二つ割。
縦樋 : 周長 8寸 の竹、六箇所。
樋受金物 : 鉄製、三尺間で垂木の横へ打付け、縦樋とも、銅線で水勾配に留意の上取付ける。
註 「・・・横樋杉 六分板 上小節 削り指立、・・」とは、木製の場合の樋受のことか?どなたかご教示を!
〇 箱下水
箱下水とは、「広辞苑」によると、「蓋で上部を覆った、断面が長方形の下水溝」とのこと。蓋付のU字側溝も該当する?
箱の側板及び蓋板 : 杉 板割 生節(いきぶし) 耳摺物(みみずりもの:角が端正なもの) 幅八寸、継手は殺ぎ継(そぎつぎ)。
桁 : 松 二寸角 丸身なし 蟻形に刻み 二尺五寸間に蟻欠きした側板に、左右に 1寸5分ずつ伸ばし嵌め込む。
註 原文の「・・側板継手殺ぎ継ぎ張桁松二寸角丸身なし二尺五寸間に蟻欠き致し側板外左右に一寸五分宛延し蟻に仕拵へ嵌め込み・・」の部分を
上記のように解しました。自信はありませんので、別解がありましたら、ご教示ください。特に、「側板外左右に一寸五分宛延し・・」の部分不明。
底板 : 松 六分板 幅 1尺 生節 耳摺物 内部を荒鉋削り、正一寸五分釘で打付け、内部はコールタール塗し、通りよく埋設する。
蓋板 : 底板と同木。幅 7寸 、継手は長さ 2寸 板幅三ツ割三枚の鵙(いすか:鶍が普通の表記)に組む。
「板幅三ツ割三枚の鵙」の形状不明。どなたかご教示を!
耳桁 : 大貫 二つ割。継手は殺ぎ継。正二寸釘にて打付け。
耳桁とは蓋板の受材の意か?
註 これは、尺幅の底板を側板底部に打つと、側板内法が約 8寸、受材:耳桁を打つと、幅 7寸の蓋板が載せられる、と考えた末の解釈です。
別解がありましたら、ご教示ください。
以上仕上がった箱下水を、入念に埋設する。ただし、竪樋より箱下水までの間は、径 3寸の土管を水勾配を十分にとり伏せ、継ぎ目には粘土を十分に塗る。
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以上で今回分はおしまいです。原文の文意の解釈に四苦八苦しました。古文読解よりも難しい・・・!
次回は仕様書紹介の最終回。「建具」の仕様が中心になります。また少々時間をいただきます。[文言追加 1日 10.30]