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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介−22 :附録 (その7)「仕様書の一例」−4

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「二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、先回からは仕様の具体的内容部分(2〜6ページ)を紹介中です。

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[文中の誤字を訂正しました。23日9.00]
紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
今回は、その4枚目:押入、壁、縁側、便所の仕様の項の紹介になります。
はじめに原文。


なお、現代語で読み下すにあたり、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けました。

 押入
  根太掛 : 大貫を(柱、土台面に添い)打付け、(床束位置には)抱き束を添える場合もある。
        註 室部分の垂木は、土台及び大引上に載せ掛けるため、根太掛は不要です。
           しかし、押入床面は、室の床面(畳面)=敷居面に揃えるのが普通です。そのため、根太掛を別途設けることになります。          
           ただ、根太掛は土台にも添うので、土台側面にも釘打ちとし、必ずしも抱き床束は設けないのではないか、と考え、上記のように解しました。
            抱き束、抱き床束 : 根太掛を承けるため、床束に添える材。厚さは根太掛に同じ。
              先回掲載の普通住家矩形図の第三図・乙の縁框〜束石の間に抱き束が描かれています。この後の縁側の項に再掲してあります。
  根太 : 松 二寸角 を1尺2寸間に取付け。
       註 大貫 : 墨掛寸法 幅4寸×厚1寸 実寸 幅3寸9分×厚8〜9分 程度、一般には杉。
         松 二寸角 : 松 八寸角の16割。実寸1寸7分角程度。
  拭板=床板 : 松 六分板 無節 削り仕上げ。
 押入中段の棚
  框、根太掛 : 二番大貫 無節 削り仕上げの上、根太彫をして取付ける。
  根太 : 松 成・丈1寸5分×幅1寸2分を1尺2寸間に取付け。
  中段棚板 : 杉 六分板 上小節 両面削り仕上げ を張る。
       註 原文の、「・・・根太 松三寸(一寸二分・一寸五分)・・」は、上記の意と解しました。
 壁下地  
  間柱 : 松 二寸角 丸身なし。上部は片枘を刻み(梁・桁に)、下端は土台上端に大釘にて取付ける。
  塗込貫(ぬりこみ ぬき) : 杉 三寸貫。表面を荒し、(上下は)枘差し。
       註 下に、木舞壁の詳細図を挙げます。
          左が両面真壁、右が片面下見板張り大壁(外壁)。(理工学社刊「おさまり詳細図集1 木造編」より抜粋編集)
          一般に、間柱は下見板張など大壁仕様の場合に設け、
          塗込貫は両面真壁仕様の時に横方向の間渡竹の固定のために間柱代りに設けるいわば薄い間柱と考えてよいでしょう。
          塗壁内に塗り込められ、見えなくなるための呼称です。
          縦方向に入れる材を貫と呼ぶのは、材料として市販の貫材を使うことによるものと思われます。
          なお、縦方向の間渡竹は、貫に固定されます。         
    

          松 二寸角 : 上掲参照。
          「間柱・・・上み片枘 付け・・」とは、材上端をL型の枘(実寸1.7/2×1.7寸)に刻むことではないか(枘を通り芯側に設けるため)、と察します。
          「塗込貫 杉三寸貫 嵐付・・・」は、塗土の付着をよくするため、材の表面を荒す、という意に解しました。
  間渡竹は縦横とも、切込み、間柱あるいは塗込貫に打付ける。柱には横間渡竹をさす孔を穿つ。(上図参照)
  小舞竹 : 四つ割りものを間渡竹に縄で掻き付ける(縛り付ける)。(上図参照)
       註 掻く : 小舞竹などを縄巻することをいう。・・「かく」は、「鳥が巣をかける」の「かく」と同意なり。「掻」はただその当字のみ。(「日本建築辞彙」)
          [巻の字、誤記を訂正しました。23日9.00]
 壁塗り
  荒壁 : 荒木田土に藁苆を混ぜ練り、塗り立てた後十分に乾かし、
       貫に当る部分、柱際、天井回縁の下それぞれ幅三寸ほどについては貫縛(ぬき しばり)、散漆喰(ちり しっくい)を施す。
      註 貫縛 : 荒壁が乾燥した後、貫の部分に亀裂防止のために行う作業。
              布伏(ぬのふせ):八寸ほどの長さに切った布片や藺柄(いがら)を中塗土で貫と土とのつなぎに塗り込む。 
              貫漆喰:貫幅より上下二寸ずつ広く漆喰を塗る。貫と荒壁を縫い付けるように切麻を摺り込む。
        散漆喰 : 柱際などに隙間が生じないように二寸程度の幅について漆喰を注意して塗り込む作業をいう(本書では三寸)。
                この解説は、「日本建築辞彙 新訂版」の解説を筆者が要約。
  中塗 : よく漉した土を使う。
  上塗 : 大坂土にて色壁塗り仕上げ。台所、大小便所及び押入の中は、いずれも茶大津で塗り仕上げる。すべて、斑のないように入念に塗り立てること。
       なお、色合いについては、現場での指示に拠ること。
      註 大坂土(大阪土):上塗土のこと。錆土、天王寺土とも呼ばれ、赤味を帯びた褐色の上塗用壁土。
                     四天王寺近辺で採掘されたものが特に上等とされ、この名がある。
         今日、赤味を帯びた土壁を聚楽壁と通称するように、明治時代には上塗土の総称として大阪土の名称が使われていたようである。
            聚楽土 : この土は中塗土としても使われ、必ずしも上塗専用土ではなかったが、その後の枯渇により珍重され
                  上塗専用土としての評価を高め、土壁の代名詞となった。(「日本建築辞彙 新訂版」より)
         茶大津 : 上塗用の茶色なる壁土にて、黄へな土二俵半程に川土一升以内を混ぜ、これに蠣灰八升、揉苆百匁程を合せたるものなり。
               へな土 : 粘土のこと。
               蠣灰 : 消石灰のこと。
               揉苆 : 藁苆に同じ。    (以上「日本建築辞彙 新訂版」より)                 
 縁側木工事
    縁側の構造について、「『日本家屋構造』の紹介−14」にあります。
    以下の解説の参考のため、矩計図及び縁側床の詳細図を再掲します。

  縁框 : 栂 無節 柾目もの 成・丈5寸×幅3寸5分。溝突き、板决り、根太彫りの上、上鉋削り仕上げ。
       継手 : 箱目違い入しゃち継、下木は大釘にて打付け。
            箱目違い入しゃち継 : 箱目違いを設けた竿しゃち継。下図参照。
            註 しゃち継を上面に設けるわけにはゆきませんから、多分下面かと思いますが、どなたか詳しい方ご教示を願います。
  根太 : 松 成・丈2寸5分×幅2寸 間隔は1尺5寸ごと。(縁板の載る)一面を通りよく削り、縁框と足堅(足固)には根太彫を施す。
  縁榑貫(えん くれぬき) : 框と同木すなわち栂 幅4寸×厚8分を丁寧に削り仕上げ、大面を取り、板相互は合釘で結び、
                   落し釘、手違い鎹または目鎹にて根太に取付け張り立てる。
      註 縁榑貫:現在の縁甲板・フローリングの意と解してよいでしょう。
         板傍は、現在の実(さね)ではなく合决り(あいじゃくり)のため、不陸を防ぐために合釘で相互を繋いでます(上図参照)。
         根太への取付けも上図をご覧ください。
         実 : 板を矧ぐ方法の一。片方の板の傍=側面に突起をつくりだし、もう一方の板の傍に同型の溝を彫り、両者を接合させる。
            突起を板自体につくりだす場合を本実、双方の板に溝だけを彫り、雇材を打込む場合を入実(いれざね)または雇実(やといざね)という。
            実についての解説は、「日本建築辞彙 新訂版」などの説明を筆者が要約
             「広辞苑」によると、「さね」とは、「核・実」、「真根(さね)」の意で、果実の中心の固い所、骨、根本の物、実体、などの意とあります。
  無目、一筋鴨居 : 部屋内の鴨居と同木すなわち 樅 無節 とする(前回を参照ください)。
               無目(成・丈1寸8分×幅3寸2分)は削り仕上げの上、上面に欄間障子落込み用溝、一筋鴨居を取付け用の决りを刻み取付ける。
               一筋鴨居>(成・丈2寸×幅2寸2分)は削り仕上げの上雨戸用の溝を突き、無目の决り:小穴に嵌め込み取付け、上端より釘打ち。
               鴨居の釣り束は、上は割楔を込めた枘差し(通称地獄枘)、下は無目上端に篠差蟻で取付け(上図参照)。
 便所の構造仕様
  床下 : 柱の内側に、(土台から)床板下端まで 厚さ本六分以上の板を張りつめ、コールタール塗を施す。
       註 板を張る場所については矩計図を参照ください。ただし、矩計図には、この板張りは描かれていません。
  床 : 柱の内面に大貫材の根太掛を打付け、抱束を立て、栂 無節 幅6寸×厚8分 を合决り(あいじゃくり)に加工、鉋仕上げとし、縁側床同様に張る。
  幅木 : 床板と同木(すなわち、栂)を柱の面内に取付ける。
  小便所の壁 : 漏斗(じょうご:木製の小便器) の裏側及び両側の壁は、
            高さ3尺まで、杉赤身 無節の本四分板を削り、桶舞倉糊矧(ひふくら のり はぎ)で竪羽目張りとし、柱には小穴を突き嵌め込む。
      註 桶舞倉糊矧 : 「日本建築辞彙 新訂版」の「ひぶくらはぎ」では、「桶部倉矧」と表記。下図のような板の矧ぎ方との説明がある。
         板戸などで使うようですが、私は実物を見たことがありません。
         桶舞倉糊矧とは、この矧ぎ方で糊を併用するものと解します。
         
         ただ、「ひふくら」「ひぶくら」の意はもとより、どちらの漢字表記も、字義が分りません!!
         ご存知の方、是非ご教示ください。
  便所まわりの長押 : 栂 柾 成・丈3寸×厚1寸 削り仕上げを取付け。
  同所入口の敷居、鴨居 : 住家部分と同木(成・丈1寸3分×幅3寸)。
  同所窓の敷居、鴨居 : 上記にならい、(建具用の)溝を突き取付け。
  (小便所)下の簀子(すのこ): 径4分の曝した女竹(めだけ、原文 おんなだけ)を幅1尺に並べ、栂 柾(幅1寸5分×高1寸2分)を削り仕上げた縁で打留め。
     註 このように解しましたが、自信はありません。
        また、原文の「・・・漏斗の掛釘共打ち、・・」の漏斗の形、掛釘の様態、打つ場所などまったく不明です。お分りの方ご教示ください。
        女竹(雌竹) : めだけ。竹の一種。幹が細く、節と節との間が長い。(「新明解国語辞典」)
  便所入口の方立 : 樅 無節 1寸8分角 を戸当を决り出し、壁板取付け用の小穴を突き、上下に枘を刻み削り仕上げの上取付ける。
  方立脇の板壁 : 杉 無節 六分板 を両面削り仕上げで、四方を小穴に嵌め込む。
  窓の外格子 : 檜(見付5分、見込7分)を削り仕上げ、2寸5分間に取付け。貫は檜 幅5分×厚2分の削り仕上げ。    
     註 原文の「窓外格子檜・・・、仝貫削り二寸五分間に取付け」は、第三図の乙図の便所の立面図から、のこのような意と解しました。
  同所への雨戸建ての取付けは、図面の通りとする。
     註 「仝所雨戸建の仕口・・・」とは、第三図 矩計図・乙のように雨戸を納める、との意に解しました。
  便所の天井 : 天井板は、住家部分の八畳間と同じ、竿縁は、五分角として吹寄せに取付け。
     註 吹寄せ : 2本を一対にすること。

以上で今回の分は終りです。

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蛇足 陶器の便器のない頃の大便所の床の穴を「桶箱(ひばこ)」というそうです。(「日本建築辞彙」)
    名前は知りませんでしたが、疎開先の外便所がこれ(屋内便所はなかった・・!)。ぽっかり空いた暗い穴は、子どもには怖かった。特に夜は・・・。
    小便器の漏斗は実際に見たことはありませんが、陶器の壁掛け小便器の下が竹簀子になっている例を、倉敷の旅館で見たように記憶しています。
    便所まわりは、いろいろ修理工事報告書を調べましたが、意外と紹介がありませんでした。
       

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