これまで書いたシリーズものへは、今までの「カテゴリー」ではアクセスしにくいと思いましたので、
シリーズのタイトル(あるいはその要旨)で一式括る形に変更しました(単発ものは従前のままです)。
ただ、最終回から第一回へという順に並びますが、その点はご容赦。
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[註補訂追加 12月30日 9.30]
今回は格付けのために各種破風を設ける「玄関(屋根)」の造りかたと「茅葺屋根」、「和洋折衷小屋組」の項の紹介。
破風として、「起り(むくり)破風」、「起り破風入母屋」「千鳥破風」「唐破風」「軒唐破風」「素軽(すがる)破風」が紹介されています。「和洋折衷小屋組」の項は、洋式の小屋組:トラスを日本の家屋に使うときの使いかたについての説明と見ることができます。
その一連の解説の中に「茅葺屋根」の説明が出てくるのは、いささか唐突な感を否めません。
これはおそらく、武家住宅に源を発する都市居住者向けの住居を見てきた著者の脳裏に、住居は武家住宅、都市居住者住宅だけではない、農家住宅もある、という「事実」がよぎったからではないでしょうか。触れておかないのは片手落ちと思われる・・・。
今回も、用語の註を付すだけで、原文をそのまま転載します(項目ごとに編集してありますが、歪みや不揃いはご容赦ください)。
はじめに、出てくる用語についてまとめておきます(抜けている用語もあるかもしれません)。
用語註 全般
上場、下場:上端、下端のこと。
起り破風(むくり はふ):上側に曲線を描く破風。「反り」の逆。
千鳥破風(ちどり はふ):屋根上に据え置いた飾りの破風。据破風とも呼ぶ。
唐破風(から はふ):中央部が起こり、両端部が反りになる形の破風。中国伝来のつくりから付けられた呼称と思われる。
素軽破風(すがる はふ):縋(すがる)破風のこと。
本家(おもや)の軒先より突出したる破風にして、片流れなるものをいう。素軽破風とも書く。
本家に縋り付き居るものとの意にて縋破風と書く方適当ならん。(「日本建築辞彙 新訂版」より)
軒唐破風(のき からはふ):屋根の軒より起る唐破風。(「日本建築辞彙 新訂版」より)
軒先に施す化粧の破風だろう。
葺地(ふきぢ):普通は土居葺の意。
この書では、「葺地の高さ三寸五分」などとあるので、土居葺上に塗る瓦下地の土塗(土居塗)をも含めているものと思われる。
土居梁(どいばり)=土居桁(どいげた):桔木を支える梁
桔木(はねぎ): 「日本の建物づくりを支えてきた技術−8・・・寺院の屋根と軒」などを参照ください。
地覆(ぢ ふく): 土台を使わない礎石建てで、柱〜柱の間に壁を設けるとき、地面から壁が立ち上る個所に、地面と見切るために取付ける横材のこと。
住居などでは、見切を設けない場合もあります(地面に直に壁が立上る)。
一見すると土台のように見えますが、土台は建て方の最初に据えられるのに対し、
地覆は、建て方が終り、壁の工事の始まる段階で取付けられます。
古代の建物に多く見られます。分りやすい例が下記に紹介してあります。
「日本の建築技術の展開−3:古代の工法(1)」
なお、地覆と地面との空隙に詰める石が地覆石です。これも後詰めです。
枠肘木(わくひじき)など:前掲の 「日本の建物づくりを支えてきた技術−8・・・寺院の屋根と軒」などを参照ください。
差母屋(さしもや):破風板を受ける母屋。破風板に差しこむことからの呼称か。
菖蒲桁(しょうぶ げた):軒唐破風の左右の桁をいう。菖蒲は借字にして・・・。(「日本建築辞彙 新訂版」より)
「しょうぶ」という読みの出どころは不明らしい。要は「化粧」の意と思われる。
なお、茅葺屋根については、「日本の建築技術の展開−24・・・・住まいと架構・その1」などを、
また、農家の平面、あるいは縁側については、「補足・日本家屋構造−6・・・・縁側考」をご覧ください。[12月30日 9.30追加]
洋風小屋組:トラス組については、「トラス組・・・古く、今なお新鮮な技術・その1」「その2」「その3」などをご覧ください。
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ここまで紹介しながら、常に私の中に湧いてきて消えなかったこと、それは、なぜこうまでして建物の「格を上げることに執心するのか」ということでした。
住居をつくるということが、暮す場所をつくることではなく、ステータス・シンボルをつくることにすり替わっているのです。
なぜなのか?
全くの推測ですが、これは、江戸の人たち、特に武家階級の出の方がたの、関西、とりわけ京に対してのコンプレックスの表れではないか、と思えてなりません。
だから、モデルとなっているのは、京の上層階級の人びとの住まいや寺社、その客殿などの外観です。
関西には、商家、農家などにほれぼれする事例が多数あります。勿論、関東にも多数あります。そこには、いわゆる客殿:書院造のつくりに学んだ室構成は見られますが、外観そのものの「模倣」は見かけません。ところが、武家住居では、室構成よりも先ず外観なのです。
これは、商家や農家の人びとは、日ごろの暮しにとって必要な室:空間: surroundings を整えることに意を用いているのに、武家、そしてその末裔の都市居住者は、相変わらずステータスの誇示が目標になっていたのだ、と考えられます。
これは、今の「住宅メーカー」のCMを見ていると、現在でも変わらないように思えます。「隣のクルマが小さく見えます」というCMの頃と変わりない。
アメリカで、1960年代、ヨーロッパの街並みについて、その「外観」:見えがかり:の「研究」が盛んに為されたことがあります。ランドマークとか、シークェンスなどの用語の発祥になった「研究」です。日本では「都市デザイン」とか「環境デザイン」という「概念」として輸入されました。
以前に紹介しましたが、たとえば、清水寺の参詣路が曲がりくねっているのは、清水の塔を見え隠れさせるための「デザイン」である、などという「研究」です。
これについては、「道・・・・どのように生まれるのか」を参照ください。
なぜアメリカで「ヨーロッパの都市」の研究が盛んに行われたか。
これも、アメリカにはアメリカなりの街並があるにもかかわらず、歴史のあるヨーロッパの街並に対するコンプレックスあるいは「憧れ」の表れではないか、と思っています。
「近代化」=「西欧化」と思い込み、自国の事例を忘れ、もっぱら西欧の模倣に努めた我が国の「文明開化」を想起させます。
「日本家屋構造」がいわゆる「高等教育機関」向けの教科書として刊行されたのと同じ頃、別の書物が刊行されています。
「建築学講義録」です。これは、実業者:職方諸氏向けの学校の講義録をまとめた書です。各地の職方が競って購入した「教科書」と言ってよいでしょう。
技術書としては、この書の方が内容として充実しているように感じています。「建築学講義録」については、概略を下記で紹介しています。
「『実業家』・・・・『職人』が実業家だったころ」
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次回は、「金物使用」「土蔵」「門」についての項を紹介する予定です。
シリーズのタイトル(あるいはその要旨)で一式括る形に変更しました(単発ものは従前のままです)。
ただ、最終回から第一回へという順に並びますが、その点はご容赦。
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[註補訂追加 12月30日 9.30]
今回は格付けのために各種破風を設ける「玄関(屋根)」の造りかたと「茅葺屋根」、「和洋折衷小屋組」の項の紹介。
破風として、「起り(むくり)破風」、「起り破風入母屋」「千鳥破風」「唐破風」「軒唐破風」「素軽(すがる)破風」が紹介されています。「和洋折衷小屋組」の項は、洋式の小屋組:トラスを日本の家屋に使うときの使いかたについての説明と見ることができます。
その一連の解説の中に「茅葺屋根」の説明が出てくるのは、いささか唐突な感を否めません。
これはおそらく、武家住宅に源を発する都市居住者向けの住居を見てきた著者の脳裏に、住居は武家住宅、都市居住者住宅だけではない、農家住宅もある、という「事実」がよぎったからではないでしょうか。触れておかないのは片手落ちと思われる・・・。
今回も、用語の註を付すだけで、原文をそのまま転載します(項目ごとに編集してありますが、歪みや不揃いはご容赦ください)。
はじめに、出てくる用語についてまとめておきます(抜けている用語もあるかもしれません)。
用語註 全般
上場、下場:上端、下端のこと。
起り破風(むくり はふ):上側に曲線を描く破風。「反り」の逆。
千鳥破風(ちどり はふ):屋根上に据え置いた飾りの破風。据破風とも呼ぶ。
唐破風(から はふ):中央部が起こり、両端部が反りになる形の破風。中国伝来のつくりから付けられた呼称と思われる。
素軽破風(すがる はふ):縋(すがる)破風のこと。
本家(おもや)の軒先より突出したる破風にして、片流れなるものをいう。素軽破風とも書く。
本家に縋り付き居るものとの意にて縋破風と書く方適当ならん。(「日本建築辞彙 新訂版」より)
軒唐破風(のき からはふ):屋根の軒より起る唐破風。(「日本建築辞彙 新訂版」より)
軒先に施す化粧の破風だろう。
葺地(ふきぢ):普通は土居葺の意。
この書では、「葺地の高さ三寸五分」などとあるので、土居葺上に塗る瓦下地の土塗(土居塗)をも含めているものと思われる。
土居梁(どいばり)=土居桁(どいげた):桔木を支える梁
桔木(はねぎ): 「日本の建物づくりを支えてきた技術−8・・・寺院の屋根と軒」などを参照ください。
地覆(ぢ ふく): 土台を使わない礎石建てで、柱〜柱の間に壁を設けるとき、地面から壁が立ち上る個所に、地面と見切るために取付ける横材のこと。
住居などでは、見切を設けない場合もあります(地面に直に壁が立上る)。
一見すると土台のように見えますが、土台は建て方の最初に据えられるのに対し、
地覆は、建て方が終り、壁の工事の始まる段階で取付けられます。
古代の建物に多く見られます。分りやすい例が下記に紹介してあります。
「日本の建築技術の展開−3:古代の工法(1)」
なお、地覆と地面との空隙に詰める石が地覆石です。これも後詰めです。
枠肘木(わくひじき)など:前掲の 「日本の建物づくりを支えてきた技術−8・・・寺院の屋根と軒」などを参照ください。
差母屋(さしもや):破風板を受ける母屋。破風板に差しこむことからの呼称か。
菖蒲桁(しょうぶ げた):軒唐破風の左右の桁をいう。菖蒲は借字にして・・・。(「日本建築辞彙 新訂版」より)
「しょうぶ」という読みの出どころは不明らしい。要は「化粧」の意と思われる。
なお、茅葺屋根については、「日本の建築技術の展開−24・・・・住まいと架構・その1」などを、
また、農家の平面、あるいは縁側については、「補足・日本家屋構造−6・・・・縁側考」をご覧ください。[12月30日 9.30追加]
洋風小屋組:トラス組については、「トラス組・・・古く、今なお新鮮な技術・その1」「その2」「その3」などをご覧ください。
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ここまで紹介しながら、常に私の中に湧いてきて消えなかったこと、それは、なぜこうまでして建物の「格を上げることに執心するのか」ということでした。
住居をつくるということが、暮す場所をつくることではなく、ステータス・シンボルをつくることにすり替わっているのです。
なぜなのか?
全くの推測ですが、これは、江戸の人たち、特に武家階級の出の方がたの、関西、とりわけ京に対してのコンプレックスの表れではないか、と思えてなりません。
だから、モデルとなっているのは、京の上層階級の人びとの住まいや寺社、その客殿などの外観です。
関西には、商家、農家などにほれぼれする事例が多数あります。勿論、関東にも多数あります。そこには、いわゆる客殿:書院造のつくりに学んだ室構成は見られますが、外観そのものの「模倣」は見かけません。ところが、武家住居では、室構成よりも先ず外観なのです。
これは、商家や農家の人びとは、日ごろの暮しにとって必要な室:空間: surroundings を整えることに意を用いているのに、武家、そしてその末裔の都市居住者は、相変わらずステータスの誇示が目標になっていたのだ、と考えられます。
これは、今の「住宅メーカー」のCMを見ていると、現在でも変わらないように思えます。「隣のクルマが小さく見えます」というCMの頃と変わりない。
アメリカで、1960年代、ヨーロッパの街並みについて、その「外観」:見えがかり:の「研究」が盛んに為されたことがあります。ランドマークとか、シークェンスなどの用語の発祥になった「研究」です。日本では「都市デザイン」とか「環境デザイン」という「概念」として輸入されました。
以前に紹介しましたが、たとえば、清水寺の参詣路が曲がりくねっているのは、清水の塔を見え隠れさせるための「デザイン」である、などという「研究」です。
これについては、「道・・・・どのように生まれるのか」を参照ください。
なぜアメリカで「ヨーロッパの都市」の研究が盛んに行われたか。
これも、アメリカにはアメリカなりの街並があるにもかかわらず、歴史のあるヨーロッパの街並に対するコンプレックスあるいは「憧れ」の表れではないか、と思っています。
「近代化」=「西欧化」と思い込み、自国の事例を忘れ、もっぱら西欧の模倣に努めた我が国の「文明開化」を想起させます。
「日本家屋構造」がいわゆる「高等教育機関」向けの教科書として刊行されたのと同じ頃、別の書物が刊行されています。
「建築学講義録」です。これは、実業者:職方諸氏向けの学校の講義録をまとめた書です。各地の職方が競って購入した「教科書」と言ってよいでしょう。
技術書としては、この書の方が内容として充実しているように感じています。「建築学講義録」については、概略を下記で紹介しています。
「『実業家』・・・・『職人』が実業家だったころ」
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次回は、「金物使用」「土蔵」「門」についての項を紹介する予定です。