[註 追加 12日 11.22]
「日本家屋構造」紹介の続き、今回は「小屋組(こや ぐみ)」:「小屋の構造」についての解説部分。
今回の紹介は、いささか考えてしまいました。継手や仕口をキライになる方を増やしてしまうのではないか、と思ったからです。
なぜなら、出だしが、多くの方が困惑するであろう仕口の解説から始まるのです。
しかし、紹介であるかぎり、原著の順に忠実でなければならない、と思い直し、註で補うことにします。
「小屋の構造」の第一として挙げられているのが「小屋組」。
「第三十四図は、方形(ほうぎょう)屋根の軒桁の隅の部分の組み方の図。
註 寄棟屋根、入母屋屋根の隅部も同じです。
各屋根については、「日本家屋構造の紹介−5」をご覧ください。
註 「入母屋」は、現在、単に屋根の形の一と思われていますが、元は架構のつくり方として謂れのある語でした。
この点については「日本の建物づくりを支えてきた技術−2」他で触れています。[追加 12日 11.22]
図の甲は上から見た伏図(ふせ ず)、乙はその分解図。
軒桁は、合欠き(あいがき)で交叉させ、隅木(すみ ぎ)は、交叉部の上に渡り欠きで掛け渡す。
この場合、桁相互の合欠きの底になる部分は、(普通の合欠きとは異なり、)隅木の勾配と同じ勾配で刻む(→注参照)。
図丙は隅柱と桁の仕口の図で、重枘(じゅう ほぞ)で桁の上端まで差し通す。
この仕口:組手を捻組(ねじ ぐみ)と呼ぶ。」
「第三十五図は、口脇形板(くちわき かたいた)を使って桁や母屋の小口に屋根(垂木)の勾配を描き写す方法を示した図。
口脇とは屋根勾配を言う(→注参照)。
口脇形板は普通の4分厚板の長辺の一方を真っ直ぐに削り、端部を屋根勾配にあわせ切り落とした板で、その先端から2.5〜3寸下がった位置に板に直角に墨を引く。この墨を水墨と呼び、図のように桁あるいは母屋の小口の真(芯)墨にあて、勾配と水墨を描き写す。そうして引いた墨に合わせ釿(ちょうな)で勾配なりに削る(→注)。」
語彙の説明 「日本建築辞彙」(新訂版)の解説
合欠き 「相欠」と書く方正しからん。
継手または組手に於て、二つの木を、各半分ずつ欠き取りて、合せたる場合にいう。
捻 組 組手の一種にして、その上下の接肌(つぎ はだ)は水平ならざるものなり。
左は大工職(建築)の捻組、右は指物職(家具等)の捻組
「日本建築辞彙」(新訂版)の後註に、次のような解説が載っています。
「・・・交叉する桁類を相欠きとする場合、その接面を水平にすると隅木との仕口によって
上木上端が斜めに欠かれているため、上木の欠損がいちじるしく偏ってしまう。
その偏りが生じないように、相欠きの接面を斜めにするのが捻組である。・・・」
下の図版は、14世紀につくられた浄土寺・浄土堂の母屋の隅の仕口の写真と分解図。
(「国宝 浄土寺・浄土堂修理工事報告書」から転載・編集)
この場合の相欠きは、普通の水平に欠き取る相欠き。
図の右上が上木の側面図。隅木の刻みにより生じる欠損の大きさが分ります。
ただ、材寸が大きいため、先端が折れるおそれはありません(右下姿図参照)。
しかし、材寸が小さい場合や、隅木の勾配が急な場合には、折損のおそれが大きくなります。
捻組は、それを避けるために生まれた現場の知恵と言えるでしょう。
最初にこういう手間のかかる仕口を説明されると、方形や寄棟、入母屋の隅は
必ずこのようにしなければならない、と思ってしまう方が現れてもおかしくありません。
そして、継手・仕口は面倒でやっかいなものなのだ・・・、となりかねません。
冒頭、「いささか考えてしまった」と記したのは、そのためです。
大事なのは、二材を同一面で交叉させる基本は相欠きだということです。
桁が一定程度の丈(5寸以上)があれば、普通の相欠きで済むのです。
口 脇 軒桁、隅木、その他すべて小返(こ がえり)付の木の横面(よこ つら)をいう。
小返りとは、天端につくられた斜面。
鎬(しのぎ)とは、最高部:峠の部分(刀剣の用語から)。
補注 この解説では、軒桁の天端全面を垂木の勾配なりに削っていますが、
現在では、垂木の載る箇所だ欠き込むのが普通ではないかと思います。
下の図はその説明。実用図解「大工さしがね術」(理工学社)より転載・編集。
図から判断すると、この書では、彫り込んだ部分のことを口脇と呼んでいるように見えます。
現在は、桁・母屋の側面の彫り込みの深さを決めて、小返り:奥行を決めるのが普通ではないでしょうか。
彫り込みの深さは任意ですが、深さが浅いときは、桁芯の峠は桁より浮いています(上図のb)。
なお、私は、桁、母屋を所定の位置に置き、口脇の深さを決めて垂木を描くことにしています。
口脇の深さは、面戸板の取付け方次第で決めています。
手加工の時代では、桁上端の全面を勾配なりに削るのは大ごとだったと思われます。
なぜそうしたのか?垂木の間隔が狭い場合があった(繁垂木)からでしょうか。
理由をご存知の方が居られましたらご教示ください。
次は、「切妻造」の解説ですが、ここでも突然傍軒(そば のき)や裏甲(うら ごう)の納め方の解説から始まります。
傍軒については、『「日本家屋構造」の紹介−5』で触れています。
裏甲とは、茅負(かや おい)の上に設ける化粧材を言います。
しかし、今回紹介の第三十六図には茅負が描かれていません。
それゆえ、一般の広小舞上に設ける淀のこととを言っているのではないかと思います。
下図は、「日本建築辞彙」所載の淀・広小舞と裏甲の図です(淀・広小舞の図は再掲)。
茅負、広小舞、淀については、同じく『「日本家屋構造」の紹介−5』参照。
「第三十六図は切妻造の傍軒の納め方の一例で、図の甲は垂木形(たるき がた)と裏甲の取付け方を示す。
図の乙は、妻梁を軒桁へ取付ける仕口で、この場合は大入れ(追入れ)蟻掛け。大入れの深さは、桁の幅の1/8程度。
淀の丈:厚さは柱径の5分(5/10)×幅4寸程度。
垂木形(*)は厚さ柱の3.5/10×幅:下端で全長の8/100、上端で下端幅の2分増し程度とし、土居葺き(どい ぶき)(*)上端より1〜1寸2分ぐらい上の位置で、軒桁、母屋、棟木には蟻掛け:図の甲:あるいは、杓子枘(しゃくし ほぞ):図の丁:(*)で取付け、なお、手違鎹(てちがい かすがい)(*)で補強する。
裏甲の大きさは、丈は垂木形の厚さと同じ、幅は淀の面より3寸以上外に出す。
裏甲と登り裏甲の隅は、目違いを設けた留(とめ)(*)で納め、上端に平鎹(ひら かすがい)2個以上を打ち補強する。」
語彙の説明 文中 * について 「日本建築辞彙」(新訂版)の解説
垂木形 片流れまたは両流れの屋根に於ける妻に取付けたる板にして垂木に平行するもの。
・・・あたかも破風のごとし。・・・垂木形は破風に比すれば、長さに対して幅が狭きものなり。
註 上側の幅を下側の幅よりも若干幅広にするのは、視覚的に、全幅が同じに見せる工夫。
土居葺 屋根瓦下なる薄板葺をいう。・・・
註 現在の野地板と見なしてよいでしょう。
杓子枘 上向きに傾斜した枘で桁類と破風板の仕口に用いられる。
留 二つの木が、直角またはその他の角度にて出会うとき、その角度を折半して継目を設けたるもの・・。
手違鎹 鎹の一種にして、その両端の爪が互いに直角をなすものなり。
註 直交する(交叉する)二材を留めるための鎹。
床板の根太への取付けなどにも使われる(→鶯張り)。
長くなりましたので、今回はここまで。
方形、寄棟、入母屋などについての「補足解説」を、「小屋組」の項の紹介終了後に載せる予定です。
次回は「京呂梁」と「折置梁」についての解説の紹介。