付録1-2 継手・仕口の実際
2-5)通し柱と胴差・梁の仕口
(1)隅の「通し柱」の場合
①小根ほぞ差し 割り楔(くさび)締め・小根ほぞ差し 込み栓打ち (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)
隅の通し柱へ胴差・梁を取付ける確実な仕口。
割り楔締め:ほぞを柱に貫通させ先端に楔を打ちこむ。ほぞの先端が広がり抜けなくなる。
込み栓打ち:ほぞを柱に貫通させ柱の側面から込み栓を打つ。栓によってほぞが抜けなくなる。
割り楔・込み栓には堅木(カシなど)が用いられる。割り楔・込み栓は、木材の弾力性・復元性を利用する方法で、確実に(きつめに)打ってあるか否かで強度に大きな差がでる。
柱内でほぞが交叉するため、ほぞを小根(こね)にする(上小根(うわっこね)、下小根(したっこね))。
どちらを上小根、下小根にするかは任意。胴差側を下小根、梁側を上小根にすれば、梁天端高さ≧胴差天端高さの場合に対応できる。
図は梁を割り楔締め、胴差を込み栓打ちにしているが、その選択は任意(両方割り楔、または込み栓でも可)。柱は最低でも4寸角以上必要。
②小根ほぞ差し 鼻栓(はなせん)(端栓)打ち
図のようにほぞの先端を柱の外に出し、柱面に沿い栓を打ち (鼻栓打ち)、ほぞを固定する確実な方法。注 鼻=端 真壁仕様に用いられるが、ほぞが飛び出す分、材長が必要となる。米マツなどの割れやすい材には不向き。
①、②とも、柱と胴差・梁はほぼ一体化し(胴差・梁端部はほぼ固定端となる)、半ばラーメン状になり、胴差・梁にかかった曲げに対して、柱も共に抵抗することになる。
③傾木(かたぎ)大入れ 全短ほぞ差し+補強金物 ④傾木大入れ 小根短ほぞ差し+補強金物
「在来工法(法令仕様の工法)」で見かける方法。端部加工が短いため、材は長く使える。傾木大入れとほぞだけでは柱から容易にはずれてしまうため、羽子板ボルトなどで補強する。ボルトの取付けナットは、材の木痩せと曲げの力の繰り返しにより緩むことが多い。 補強金物を用いても、胴差・梁は柱に緊結されないから、胴差・梁は単純梁となる。
(2)中間の通し柱の場合
二方~四方から胴差・梁が取付き、それぞれ二方差(にほうざ)し、三方差(さんぽうざ)し、四方差(しほうざ)しと呼ぶ。
①竿シャチ継ぎ・雇(やと)い竿シャチ継ぎ(目違い付) (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)
柱への胴差・梁の仕口であるが、柱を介して左右二方の材が継がれるので「・・・継ぎ」と呼ぶ。中途の通し柱へ、胴差・梁を確実・堅固に取付けることができる。 柱の刻みの関係で、柱は4寸角以上必要。四方差しの場合は、できれば4.5寸~5寸角。胴差と梁に段差がある場合も使用可能。
一材に竿を造り出し、柱を介して反対側の材に差し込み、シャチ栓を打ち相互を固める。シャチ栓を打つ道に、柱側に向け僅かな傾斜を付けてあるため(引き勝手)、栓を打つと両側の材が引き寄せられ、柱と胴差・梁が密着する。栓はカシなどの堅木。胴差・梁の端部がほぼ固定端となり、半ばラーメン状の架構となる。
竿の部分を造るには長い材が必要になるため、竿の部分を別材で造る雇い竿シャチ継ぎがある。
なお、図の三方差しの場合、胴差を取付ける前に梁を差し、割り楔の代わりに込み栓を打つ方法:胴差の胴突内に隠れるので隠し込み栓という方法もある。(後出 日本家屋構造 「鴻の巣」)
また胴差も竿に対して側面から込み栓を打つ方法もある(この栓は外から見える)。効果は竿シャチ継ぎと同じ。
傾木大入れよりは手間がかかるが、この仕口を必要とする箇所は、通常、全軸組の中で限られており、軸組強度の点を考えれば、決して余計な手間ではない。
シャチ栓、込み栓、割り楔は、木材の弾力性・復元性を利用しているため、年月を経ても緩みが生じにくく、接合部自体も緩む可能性は小さい。
梁天端>胴差天端の場合の四方差し
②傾木大入れ 全短ほぞ差し+補強金物 ③傾木大入れ 小根短ほぞ差し+補強金物 ④傾木大入れ+補強金物⑤胴突き+補強金物 注 補強金物:羽子板ボルト、短冊金物、かね折金物、箱金など
②③④⑤は前項(「隅の通し柱の場合」)の図解参照。 取付けた胴差・梁は単純梁と見なされる。
補強金物の場合、金物の取付けボルトや釘は、材の木痩せや繰り返しかかる外力によって緩みやすく、荷重の伝達の不具合、建物の揺れを起しやすい。金物の緩みは隠れて見えないことが多いが、内装材のひび割れ、床・敷居の不陸などで現れることがある。コーススレッドを使用すると、緩みは避けられるが、木部が割れる恐れがある
6)胴差と梁の仕口、胴差・梁と管柱の仕口
(1)胴差と梁が天端同面(てんばどうづら)の場合
①胴突き付 腰掛け蟻掛け ②大入れ蟻掛け(解説図省略)
いずれも柱根ほぞ・頭ほぞは長ほぞ差し。普通に行われる方法。柱ほぞは短ほぞ差しよりも、長ほぞ差しの方が適切である。込み栓を打てばさらに確実。
短ほぞ差しの場合は山型プレート、平金物などによる補強が必要。筋かいの取付く箇所では、ホールダウン金物を必要とする場合がある(告示第1460号)。
図Aは、胴差丈≧梁丈、天端同面の場合。胴差下に管柱があるときは、胴突きを梁丈いっぱいに設けることができる。下に管柱がないときは、胴突きの丈を小さくして腰掛けの効果を確保する。
図Bは、梁丈≧胴差、天端同面の場合。下に管柱がなければ梁下端がこぼれる。梁の胴突きを管柱にのせかける。
大入れ蟻掛けで取付けるには、天端同面の場合は、胴差丈>梁丈でないと梁下端がこぼれる。また、下に管柱がないときは、胴差への梁のかかりが1寸(約30㎜)程度必要。必要な梁丈により胴差の丈を決める。梁は単純梁と見なされる。いずれの仕口も、金融公庫仕様は、胴差と梁を羽子板ボルトで結ぶことを指定。
(2)胴差に梁をのせ掛ける場合(梁天>胴差天)
①大入れ蟻掛け(解説図省略):梁が胴差にかかる部分だけ大入れ蟻掛けとする。普通に行われているが、安定度が劣るため羽子板ボルトより補強することが多い。上階の管柱の取付けが難しい。梁は単純梁となる。台輪を設けるか(前出 組み方B-イ)、梁を胴差外側まで伸ばし扇ほぞで立てる。これを解決する確実な方法が次の②である。
②胴突き付き蟻掛け+上階柱蟻落とし
梁端部全面に胴突き付き蟻を刻み胴差に掛け、上階の管柱を蟻落としで落とし込む。根ほぞは長ほぞが適切。下階の管柱は、胴差に長ほぞ差し。下階に管柱がなくてもできる。図は胴差に左右から梁が架かっているが、外周部など片側だけの場合も可能。見えがかりもよく、真壁仕様で用いられる仕口。
上下の管柱、胴差、梁が一体に組まれるため、梁端部は固定端に近くなる。上下の関係を逆にした納め方も可能である。 胴差端部に胴突き付き蟻型を造り出し、1階管柱に架け、残りの蟻型に胴突き付き蟻の逆型を刻んだ梁を落し込み一体化させる。
7)胴差・梁の継手と材の必要長さ
参考 「日本家屋構造」 所載の「2階梁と通し柱の仕口 鴻の巣」(付録1より再掲)
「・・右図の如く、横差物を大入れに仕付け、その深さは柱直径の八分の一ぐらいにして、(い)(い)の如く柱のほぞ(・・)穴左右の一部分を図の如くのこし他を掘り取り差し合す。この如くなしたるものを鴻の巣(こうのす)といふ。また鴻の巣をその差物の成(せい)(丈)の全部を通して入れることもあり。これ全く柱の力を弱めざるのみならず、その差物の曲(くるひ)を止め、かつ(ろ)の穴底に柱を接せしめほぞ(・・)を堅固ならしむるなり。
本図は二階梁の三方差にして斯くの如き仕口にありては、一方桁行はシャチ継ぎとなし、梁間の方を小根ほぞ差とす。(は)の込み栓を(に)の穴中より差し、かつ(ほ)の切欠きに(へ)の下端を通して梁の脱出(ぬけいで)するを防ぐものとす。」
日本家屋構造は、明治37年(1904年)に初版が刊行された木造建築の教科書で、著者は当時東京高等工業学校の助教授であった斎藤兵次郎である。この書は、「実務者」(*)養成の学校の教科書であり、明治期の木造建築についての教育内容を知ることができ、同時に、当時の木造建築の技術状況も知ることができる。
*「頭と手を使い、実際にものをこしらえる人びと」のことで、「実業者」とも呼んでいる。
参考 柱の長さの検討
軸組部分の最下部は土台、最上部は軒桁まわりであり、その間をどのように構成するかを考える。
市販の材木を使用する場合、土台~軒桁の高さ:柱の長さはほぼ決まる。市場流通の柱材正角材の規格長さ:3m(10尺)、4m(13尺)、6m(20尺)・・ 注 現在の木材規格は、通常の建物に間に合う寸法として、江戸時代に確立した規格を踏襲。 ただし、関東間向けであるため、関西間・京間(およびメートルグリッド)には適さない。
3mものは、通常の大きさの部屋を確保するときの管柱(比較的大きな部屋を設けるときには天井を高くするために4mものを使う)、6mものは通し柱、4mものは土台、大引、小梁などの横ものとして使いやすい長さ(2間の間に渡せる)である。JAS規格相当品(同等品)でも、寸法規格は同じである。
通常の建物:1階の管柱に3m材、2階までの通し柱に6m材を使用。1階管柱に4m材を用いると通し柱は特注。
管柱の必要長さ =根ほぞ長さ+土台天端~胴差・梁下端の長さ+頭ほぞ長さ
通し柱の必要長さ=根ほぞ長さ+土台天端~軒桁・小屋梁下端の長さ+頭ほぞ長さ
根ほぞ(柱下部の土台あるいは胴差・小屋梁などに取り付けるためのほぞ)・頭ほぞ(柱上部の胴差・梁、軒桁・小屋梁などに取り付けるためのほぞ:いずれも長ほぞの場合は、ほぞの長さは最低3寸(9㎝)必要。 短ほぞ(1寸程度)は横および引き抜きの外力に対して不安。
必要な柱の長さ=見えがかり寸法(土台天端~胴差・梁下端)+最低6寸
また、材の端部には傷みがある場合があり、両端の1寸程度ずつは使えないと考えておく。
∴3m材の最大可能見えがかり寸法=3m-ほぞ分18㎝-材端傷み分6㎝=約2.76m
4m材の最大可能見えがかり寸法=4m-ほぞ分18㎝-材端傷み分6㎝=約3.76m
6m材の最大可能見えがかり寸法=6m-ほぞ分18㎝-材端傷み分6㎝=約5.76m
8)梁と小梁の仕口
梁と小梁は、通常、天端を同面納めとする。
①大入れ蟻掛け:小梁の断面の大小にかかわらず確実に納まる。単純梁と見なされるが、蟻掛けがあるだけ、②の大入れよりも曲げに強い。
②大入れ:断面が小さい場合は大入れでも可。
9)根太と梁・小梁の仕口
(1)梁・小梁にのせ掛ける: 根太用材の市販品の材長は3.65m、4mであり、乗せ掛ける場合は、連続梁と見なせる。
①丈の小さい根太の場合(幅3.6㎝×丈4.5㎝、幅4.5㎝×丈5.5㎝など):乗せ掛けて釘打ち
②丈の大きい根太の場合(幅4.5㎝×丈10.5㎝など):a)渡りあごを設けて釘打ちは梁を傷めず確実な納め。b)梁・小梁を欠き込み釘打ち:梁を傷める恐れがある。床仕上げの高さは、欠き込みの深さで調整する。
乗せ掛ける場合は、①、②ともに、柱の際(きわ)には、際根太(きわねだ)を必要とする。
根太は、梁・小梁の上で継ぎ、特に継手は設けない。殺(そ)ぎ継ぎ(接続面を同じ角度に斜めに切り、重ねて継ぐ)にすると不陸が起きにくい。
継手箇所に近いスパンは、それ以外のスパンよりも、たわみが大きくなる(連続梁の特徴)ので、根太の継手を同一の梁・小梁上に並べて設けず、千鳥(互い違い)配置とする。
(2)梁・小梁と天端同面納め
根太は単純梁と見なせる。断面の小さな材は使えない。 スパンが3尺(909㎜)程度でも、幅1.3~1.5寸×丈3~3.5寸(40~45㎜×90~105㎜)以上の材が必要。
一般に大入れで取付けるが、単純梁になるため、荷重によりたわみで仕口に緩みが生じる恐れがある。刻みはきつめに造ることが求められる(釘打ちを併用しても、釘がきしむことがある)。荷重が大きいときには、1.5寸以上の幅の材を蟻掛けで納めると固定端に近くなり、同じ荷重でも、大入れに比べてたわみにくくなる。
下図は、激しい振動が加わる体育館の床: 丈120×幅60の根太を蟻掛けで掛ける(筑波第一小学校屋内体育館の床組の一部)
10)安定した架構を造る:通し柱・管柱と胴差・梁の組み方
普通に手に入る木材で、強度的に安定した架構を造るには、木材の性質を踏まえた確実な継手・仕口を用いて構成部材を極力一体化させることが最良である。
比較的簡単な継手・仕口と補強金物を用いる場合でも、一部分への応力集中が生じないように架構全体を見渡しながら構成部材を極力一体化させるように考える必要がある。
ここで紹介している継手・仕口は、経年変化の確認:実地での改良が積み重ねられてきたものであり、現在でも加工が可能である(多くは機械加工ができる)。
通常用いられるのは、架構法A、Bである(9頁の図再掲)。