今回は、「(三)戸の部」の項の紹介です。内容は、雨戸、舞良戸、格子戸、帯戸、唐戸など、いろいろな戸とその材料、一般的な材寸などの仕様についての解説です。
図版は第十七図と十八図の二図。今回は、第十七図とその解説をA4一枚に、第十八図と解説をA4二枚にまとめました。
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はじめに第十七図について
第十七図甲は、普通の雨戸のうち戸尻(閉めた時に戸袋寄りの最後の一枚の戸の呼称)にあたる戸の図。
第十七図乙は、幅に尺の便所の開き戸の姿。
第十七図丙・丁は、雨戸の構造(框の組み方、板の張り方)を示す。便所開き戸もこれに倣う。
以下に、戸の材料、框などの材寸、仕口などの一般的仕様を記す。
上等雨戸
材料:框、桟は檜無節。各部とも削り仕上げ。
縦框:見付1寸2分×見込1寸1分
上桟:見付1寸8分×見込1寸5厘
下桟:見付1寸6分×見込1寸5厘
中桟:見付1寸1分×見込7分
組み方など:上桟、下桟は二枚枘差、板决り(いたじゃくり)を設ける。
中桟は一枚枘差。
竪框の板决り(いたじゃくり)は深さ2分程度。
組立ては糊付け併用、枘差部は楔締めで堅める。
板:杉本四分板、赤身無節両面削り、三枚矧ぎ。中桟位置に合釘。桟への釘は@2寸。
下桟の下端には厚さ3分ほどの樫材の「辷り」を取付ける。ゴムあるいは金属製の戸車を付けることもあるが、金属製は音に留意。
召合せ:噛合わせ高さ2分程度の実决り(さねじゃくり)とする。
戸締め:戸尻の戸には上げ猿、落し猿および横猿二か所を設ける。
註 図丙の左端の突起物は枘と楔の形を示していると思われますが、端部の半円状のものは何か不明です。
中等雨戸
材料:框、桟は樅。
材寸:上等雨戸に同じ。
組み方など:仕口は一枚枘差。
板:杉並無節三枚矧ぎ、横猿は一箇所。
召合せ:噛合わせ高さ2分程度の合决り(あいじゃくり)。
下等雨戸
材料:框、桟は杉。
材寸:前者に同じ。横桟は上桟、下桟とも6本。
註 上等、中等雨戸は『日本家屋構造・中巻:製図篇』の「仕様書」では、横桟は上桟、下桟とも7本とあります(下記を参照ください)。
板:杉四分板生小節四枚矧ぎ。上端は打流し(うちながし)とする。
打流しとは、上桟に中桟と同寸の材を用い、板を上桟より上に伸ばして張ることをいう。
他は上等、中等雨戸に同じ。
以上の内容は、「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介−24」と重複の個所がありますので、あわせご覧ください。
「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介−24」
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次に、第十八図について。
上段に解説文、下段に図をまとめてあります。
第十八図は、甲:普通の舞良戸(まいら ど)、乙:格子戸(こうし ど)、丙:帯戸(おび ど)、丁:唐戸(から ど)の姿図を示す。
第十八図−甲
普通舞良戸 押入、便所などの片開き戸に使用する。大きさは使用箇所により異なる。
材料:檜が最良で、樅、杉がこれに次ぐ。
竪框:見付1寸5分以上×見込1寸1分
上桟:成(見付)1寸6分×厚さ(見込)1寸1分
下桟:上桟に同じ
中舞良子:6分角、中央の1本は、左右移動を自在とし、横猿として用いる。
板:杉四分板、糊併用の樋舞倉矧ぎ(ひぶくらはぎ)とし、四方は、竪框・上下桟に設けた小穴(板决りの意と解す)に入れる。
雨戸と同じく、裏面より釘打ちとすることもある。
上等舞良戸 玄関あるいは社寺などの雨戸に用いることが多い。
材料:上記に同じ
縦框:柱間により異なるが、大抵は見付1寸5分以上×見込1寸1分
上下横桟:縦框の見付を見廻し(同寸で廻す意と解す)あるいはその2分増しとすることもある。
中舞良子:縦框の8分どり(8/10)とし、明きは横桟の見付の1.5〜2倍程度とする。
仕口:二枚枘差、面腰押(めんこしおし)とする。
板:普通舞良戸に同じ。
第十八図−乙
格子戸
縦框:雨戸に倣う。
中格子(竪子):見付7分×見込8分
貫:幅(見付)竪子の見付の9/10×厚さ(見込)2〜2.5分程度とする。
竪子は、柱間6尺二枚建てのときは、普通は13本、やや繁くするときは15本にする。
貫は5通り差し、竪子の歪み防止のため、中央の1〜2通りは、掛子彫割貫(かけご ほり わりぬき)とする。
第十八図−丙
帯 戸 室内の間仕切、または押入あるいは廊下などの仕切りに用いる板戸(廊下に用いるときは杉戸と云い、片面には帯桟:おびさん:を設けず鏡板とする)。
縦框:見付1寸8分以上×見込1寸1分
上下横桟:縦框の見付を見廻し(同寸で廻す意と解す)×厚さ(見込)1寸1分
帯桟:見付2寸6分×見込1寸1分(見付は縦框の見付の1.3倍ほどとする)。帯桟の取付け位置は、全高の中央を帯桟の上端とする。
仕口:上下横桟は二枚枘差とするか、または鎌枘で上下の木口より嵌め込む。
註 鎌枘:端部に鎌形を刻んだ桟を、框側に彫った鎌形に嵌め込む方法。次回第二十図で紹介。
帯桟は二枚の包込み枘(つつみこみほぞ)とする。
各材隅部は面腰押とする。
板:糊併用の樋舞倉矧ぎ(ひぶくらはぎ)とし、四周は小穴に嵌める。
第十八図−丁
唐 戸 社寺などの外回りの雨戸に用いることが多い。開き戸、引戸両様あり。
縦框:見付は柱間の1/24〜30以上、見込はその見付の8/10程度とする。
上下横桟:縦框の見付の2/10増し(1.2倍)。
中桟:縦框の見付に同じ。
中桟の位置:全高の3/5を下から(下桟を含む)5本目の桟の中心位置とする。
図中、上中下の同寸の三ヶ所の明き寸法は、縦框見付の裏目(√2倍)、下方の二段は等分とする。
註:原文の「上・中・下の三ヶ所の明きは・・・」の部分、「図中(イ)(ロ)・・」の表示が図にないので、上記のように、想定で解しました。
仕口:両面とも几帳面の面腰押とする。面の大きさは七つ面とする
註 七つ面:見付総幅の1/7を両側の面に配分すること。ゆえに、面自体は見付の1/14。(「日本建築辞彙」による)
各種の門の戸の木割も、唐戸の木割に倣う。その場合、縦框の見付は門柱間の横内法幅の1/22〜24、見込はその8/10とする。
註 原文の「柱の横内法幅」とは、戸の入る門柱間の内法の意と解しました。
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後 註
面腰押、樋舞倉矧ぎ、掛子彫割貫、包込み枘などについては、 「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介−24」で説明を加えています。
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以上で「戸の部」は終り。次回は「四 障子及び襖の部」を紹介します。