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End-jetty houses and end ‘crucks’
先に6章において、小規模で比較的簡素で、年輪判定で遅いと見なされた事例から、「端部跳ね出し(突き出し)形式: end-jetty houses 」の家屋は、主屋に直交して置かれる別棟形式や WEALDEN 形式の家屋よりも後になって発展した形式であると考えられ、よく言われるような後期の形式に先立つ事例ではないことについて触れた。その一つの理由は、それらの多くが、 階上の crucks:upper crucks あるいは end-crucks の名で呼ばれる「湾曲した部材」を持っているからである。この部材は、階上の跳ね出し:突き出し部に設けられ、 half-hipped roof と呼ばれる屋根を承けている。
half-hipped roof :完全な寄棟屋根ではなく、寄棟屋根の先端部を切り取った形の屋根。fig82, 83 のように、立面上部が台形状になる。
LYMINGE の UPSTREET COTTAGES 、HYTHE 近郊の NEWINGTON にある OLD KENT COTTAGE は、既に公表されている事例である。YALDING 教区の BENOVER にある BURNT OAK は、quasi-aisled :疑似側廊形式の架構で、hall は base ceuck で造られている。一見すると新しい時代のもののように見えるが、調べてゆくと、end crucks が本体とは別の増補された部分であることが分ってきた。このように二期にわたると見なされる事例は他にもある。fig82 の SMARDEN にある TOLHURST FARMHOUSE や fig83 の DETLING の WELL COTTAGE などがその例である。
crucks basecrucks については、このシリーズの「-16」「-17」「-18」を参照ください。
二つの部分が見られる場合、どちらが新しい部分か判断に迷う場合があるが、WELL COTTAGEの場合は、きわめて明瞭であった。ここでは、背丈の低かった建物に部材を追加して背丈を高くしている。具体的には fig83 のように cruck 類似の部材が、新しく追加された wall plate :梁を承ける桁にあたる部分:を承け、この wall plate が新規の屋根を支えている。
最終的には、STAPLE の SUMMERFIELD FARMHOUSE のように、end-crucks が両側に二組設けられるような建物も現れるが、SUMMERFIELD FARMHOUSEの建屋は総二階建で、16世紀後期~17世紀に建てられたのではないかと考えられている。
end-crucksのある建物は、概して異様なほど壁の高さが低い。end-jettied 形式の建物や unjettied の建物は、6章でみたように、一般に WEALDEN 形式の建物あるいは直交配置の別棟形式の建物に比べると相対的に壁が低く、その wall plates の高さは平均してGLから 3.8mである。ところが、そのうちで end-crucksを設けた事例(全部で6例ある)は、これよりも低い。3.2mより高い例は一つもなく、平均高は 2.26mと、かなり低い。この建屋に二階を挿入することは、高さと、採光の点で、極めて難しい。とりわけ普通のケント風の寄棟屋根ではなおさら難しい。だから、end-crucksで端部の壁を高くし、屋根を half-hiped roof にする方策は驚くべき工夫なのである。その結果、室は四周各所に設けられ、かつ開口部ある壁も用意できるようになった。また、そこでは、湾曲した cruck-like の部材が繋梁の承け材として重要な意味を持っている。
これらの事例は、建設が二度にわたっている場合が多く、おそらく当初の平屋建ての端部が増補されたと考えられるが、WELL COTTAGEでは、跳ね出しの二階が既に在ったようだが、階上は屋根裏部屋同然であった。時代判定というものが、正確でないのは珍しいことではない。しかし、end-crucksが二度の時期に造られている傾向が多いこと、そしてそのいくつかは遅れて(多分、 half-hiped roof が別の意味を担うようになってくる頃)現れるという事実、しかも小規模の比較的貧しい家屋に多いこと、これは全て、これらの事例が15世紀後期以降の建設であることを示していると見てよいだろう。
この節 了
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筆者の読後の感想は、次回の Late medieval roof construction 紹介後書くことにします。