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Channel: 建築をめぐる話・・・つくることの原点を考える    下山眞司        
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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介−21 :附録 (その6)「仕様書の一例」−3

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「二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、先回からは仕様の具体的内容部分(2〜6ページ)を紹介中です。

紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
なお、現代語で読み下すにあたり、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けました。

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今回は先回の続きの3ページ目、はじめに原文

先回の続きで、縁側部分の屋根葺き下地の仕様から始まります。
通常、屋根下地の工事が終ると、一旦木工事は中断し、屋根葺き工事が行われます。
原文でも、その工程にしたがい、縁側の屋根下地に続き、瓦葺きの仕様が述べられます。
  なお、記述にはありませんが、棟木、母屋等が掛けられた段階、あるいは垂木が掛けられた段階には、上棟式が行われたものと思います。
  また、瓦桟の取付けは、大工職が行う場合と、瓦職が行う場合とがあるようです。

現代語で読み下します。
参考のために矩計図を再掲します。ここで描かれているのは、図中の第三図・甲の場合です。


木工事の続き
 縁側垂木掛:松 丈3寸6分×幅1寸8分、(裏板を載せ掛ける)腰掛决(こしかけ しゃくり)及び垂木彫を施し削り仕上げをして取付け。
 化粧垂木:松 丈1寸8分×幅1寸5分、1尺5寸間。面戸取付けの欠き込みを設ける。
 面戸板:杉 本四分板(ほん しぶ いた:実寸 3分程度)を削り仕上げの上はめ込む。
 裏板:杉 四分板(しぶ いた:実寸厚 2分5厘程度)無節の削り仕上げ。刃重ね8分以上で張り上げる。
   註 四分板:東京近傍にて、四分板は、杉材にして、長さ一間、厚さ実寸 2分5厘程。また杉本四分板は厚さ(実寸)3分程なり。
            またその幅は一尺内外数種あり。これを下見板、天井裏板などに用うることあり。(以上「日本建築辞彙 新訂版」による)
           この「実寸」は、四分板と称して市販されている材の実寸、つまり「墨掛寸法:曳割る前の寸法」の意と解します。
           したがって、削り仕上げると、更に薄くなるはずです(天井裏板で 2分程度、面戸板は 2分5厘程か。)
 なお、野屋根部分(垂木、野地板)は、主屋からの続きとする。(上掲の第三図・甲参照)。
   註 原文の「上野地は本屋よりつき下し」とは、第三図・甲のように、主屋の屋根をそのまま延長する、との意に解しました。

   〈この段階で、現場での木工事は一旦休止、屋根葺き・瓦葺きに入ります。〉

瓦葺き工事
  
 片面磨き 深切込桟瓦、軒先唐草瓦・敷平瓦を、一坪あたり4荷の葺土を用い通りよく葺く。
   註 磨き(瓦):白雲母の粉を布袋にて包み、以て素地の表面を磨きたる後、焼きて製す。(「日本建築辞彙」)
 葺土は荒木田と川粘土を等分に混ぜる。尻釘は各瓦に打つ。
 大棟は、五遍:熨斗瓦(のし がわら)四段+冠瓦:とし、鬼板を銅線にて釣り付ける。
 隅棟は、三遍:熨斗瓦二段+冠瓦:とし、鬼板を銅線にて釣り付ける。鬼瓦は須甘(州浜:すはま の転訛)とする。
 切妻(屋根)の端部は螻羽瓦(けらば がわら)を用い、風切瓦は丸瓦一通りを葺き、其の端部は巴瓦とする。
 瓦は、面も通りもすべてムラのないように入念に葺くこと。
   
   註 用語の解説のための参考図として、一般的な桟瓦の形状図と瓦屋根形状図を載せます。
    ? 桟瓦の形状図(現在関東地域で多用されている JIS規格53A型の規格寸法です) 
      
     これは、坪井利弘 著「日本の瓦」(新建築社 刊)を参考に作成した図です。
        なお、この書は、瓦と瓦葺きについての現存最高の参考書と言えるのではないか、と思っています。
      深切込:切込とは、瓦の左上の欠込み部の深さ:流れ方向の長さ:をいい、深切込桟瓦は切込 1寸3分のもの。
            上図は 40?≒1寸3分 なので、深切込に相当します。
    ? 瓦屋根形状図
      上段:切妻屋根  左図中の「袖瓦」は、「螻羽(けらば)瓦」とも呼ぶ場合もあります。
                  右図中の妻側端部の一通りの丸瓦を「風切丸瓦(かざきり まるがわら)」「風切丸(かざきり まる)」と呼ぶ場合もあります。
      中段:寄棟屋根   普通の葺き方は左図です。
      下段:入母屋屋根 左図の表題「下り棟」は、同図中の「降り棟」と同義です。

   註 瓦については、原文は「寄棟屋根の普通住家」についてだけではなく、寄棟以外の屋根形状についても述べています
      寄棟屋根には、螻羽瓦:袖瓦や風切丸などはありません。

      軒先唐草瓦:軒先瓦で唐草模様付が唐草瓦。軒先瓦の代名詞として、模様のない瓦も唐草瓦と呼ぶ場合がある。原文もその意と解します。
                普通は、上図の「万十」と記した瓦が使われる。「万十」は、「饅頭」の転訛と思われます。
      棟の葺き方  以下に、「日本家屋構造・中巻 八 鬼瓦の書き方」より、当該箇所を抜粋転載します。
        棟積重ねに於て何篇取とは、平の屋根瓦上に熨斗瓦及び冠瓦を重ねたる数にして、
        例へば四篇取りとは、平屋根瓦上に、熨斗瓦三通りと冠瓦一通りを積み重ねたるものにして、三篇或ひ五篇取るも亦之に準ず。
         「日本家屋構造・中巻」の紹介−8に、「鬼瓦の書き方」の項の原文及び「瓦葺き要説」を載せてあります。今回の図は、その中の再掲です。
      冠瓦:棟上部にかぶせる瓦のこと。
        下図は、冠瓦の一例。通常は丸瓦を使うことが多い。(前掲書「日本の瓦」より抜粋転載)

      熨斗瓦:冠瓦を載せる台を形づくる丸味を帯びた扁平な形の瓦。
            「のし」は「のし餅」の「のし」と同義で、「伸ばす」という意。熨斗袋の熨斗も同義に発する。(「広辞苑」による)
      須甘 鬼瓦:州浜(すはま):「州のある浜辺」をかたどった模様(「広辞苑」による)の鬼瓦。鬼瓦でもっともシンプルな形状と言えるでしょう。
       下の写真はその一例です。左:表、右:裏面。江戸末頃の建物に使われていた瓦です。なお、地面の目地の幅は、約6寸です。
       「形の謂れ」が明解です。中央の大きな円が「冠瓦:棟の丸瓦」の端部、下の左右の渦が「のし瓦」の端部を隠す(「のし瓦」の痕跡が裏面に見える)。
       裏面の「取っ手」のようなリング状の形をした突起に、瓦固定(原文の「釣付け」)のための銅線を縛り付ける。
         

 軒先瓦はは5枚分、踏下げは4枚分を、また面戸、螻羽、風切丸瓦は2篇を屋根漆喰で接合する。下付けは普通の白漆喰、仕上げは鼠(色の)漆喰を用いる。
   註 踏下げ(ふみさげ):「日本建築辞彙」には、「踏下げ」ではなく、「踏下り(ふみさがり)」とあり、下記の説明があります。
      踏下り(ふみさがり):流れに沿いて棟よりの下り。屋根漆喰、踏下り、三枚通り とは、棟より三枚目迄は漆喰塗になすとの意。

   〈この段階で、再び、木工事が再開します。〉

 足固め(足堅め) : 檜 五寸角、両端に枘を刻み、柱に差し、込栓を打つ。
 床大引 : 末口5寸、長さ2間の松丸太の上端一面を削り、3尺間に架ける。
 床束 : 杉 四寸角、大引に枘差し。礎石の玉石上に据える。
 根緘貫(根搦貫) : ねがらみ ぬき 杉 中貫を床束の側面に打付ける。
 根太 : 松 二寸角 丸身なし、1尺5寸間。継手は殺ぎ継ぎ。上端から大引に大釘打付け。
 床板 : 松 六分板。側面を削り調整の上、張付ける。
   註 五寸角、四寸角、二寸角、 六分板・・・ : いずれも墨掛寸法(曳割り前の寸法)表示。
      中貫 : 隅掛 幅3寸5分×厚8分
 天井廻縁(回縁) : まわりぶち 松 二寸角無節。隅の仕口は下端を留にした目違い枘入り。柱へは、襟輪欠きで納める。
 竿縁 : さおぶち 樅 無節 を、高(成・丈)8分×幅1寸に曳割り削り仕上げ。1尺5寸間に回縁に彫り込み取付け。
 天井板 : 八畳間は二間とも杉 四分板 赤身無節、その他の部屋は 杉 四分板 並無節 を上々に鉋で仕上げ刃重ね8分以上で張り立てる。
 天井釣木 : 杉 小割 を3尺間に配し、天井板裏に3尺間に打付けた受木に釣り付ける。
   註 小割 : =並小割。杉の四寸角の十二割または五寸角二十割の細い木材。実寸は幅1寸×厚9分程度の材。長さ2間。(「日本建築辞彙」による)
 内法 : 敷居 松 無節 高(成・丈)2寸×幅3寸8分、鴨居 樅 無節 高(成・丈)1寸4分×幅3寸5分 削り、溝を彫る。
 敷居取付け仕口 : 一方 横枘、他方 待枘、横栓打ち。
 鴨居取付け仕口 : 一方 横枘、他方 上端より大釘2本打ち、中央部釣束下は、篠差蟻で取付け。   
   註 敷居、鴨居、釣束の仕口などについては、下記参照。
     「『日本家屋構造』の紹介−15」  内法長押 : 樅 柾目 上等品を削り仕上げ。隅は留、床柱への取付けは雛留とする。   
   註 長押の納まりについては、下記参照。
      「『日本家屋構造』の紹介−16」 
 上り框 : 松 無節 高(成・丈)5寸×幅3寸5分 左右柱に枘差し、床板掛りを决り(しゃくり)、蹴込板取付け用の小穴を彫る。
 蹴込板 : 杉 本四分板 赤身 無節 の削り仕上げ。側面には辷刃(すべりは)を設ける。
   註 辷刃 : 板の「傍」を刃のごとくになしたるものなり。(「日本建築辞彙」による)
         相手の材へ嵌め込み作業を容易にするための細工・工夫と考えられます。
      决る(しゃくる) : 職方の常用語の一。板壁に使う「あいじゃくり板」のように、板の側面:接合部を段状に削りとることをいう。
                「日本建築辞彙」では、「抉る(さくる)」(「抉る」は、「くじる」「えぐる」と同義)の転訛、誤記ではないか、という。
      小穴を突く : 小穴、すなわち幅の狭い細い溝を穿つ・彫ることを小穴を突くという。職方の常用語の一。
    台所上り框、上げ板框 : 松 四寸敷居木(しすん しきいぎ)無節。上げ板の掛りを决り取付ける。
   註 敷居木 : 「東京付近に於て販売する松敷居木は、厚さ二寸にして、幅四寸及び五寸の二種あり。これをそれぞれ四寸敷居木、五寸敷居木という。
           右、厚さ及び幅は、実寸に於て一〜三分少なし。」(「日本建築辞彙」より)
 同所蹴込板 : 杉 四分板 小節 辷刃付、削り仕上げ。
 拭板(ぬぐい いた):松 六分板 無節を削り仕上げ、張る。
   註 拭板 : ・・・・鏡板は区画内にある一枚板・・たとえ矧目あるも顕著ならずして全く一枚板の性質を具うるものとす。
           然るに拭板は同じく平滑なりと雖も、床板の如く合せ目顕著なるものに用うる語なり。(「日本建築辞彙」鏡板の解説より抜粋)
上げ板 : 杉板 小節 幅七寸以上。削り仕上げ。手掛けの穴を彫り、組み合わせる。
 下流し(した ながし)の根太 : 松 丸太径3寸の一面を削る。
 下流しの樋 : 側板 大貫 赤身 に、底板 松 六分板 を削り仕上げの上差し組み立て埋め込み、松 六分板 上小節を 削り、水勾配に留意の上張り上げる。 
   註 下流しは、下に再掲する平面図の右下隅の矢羽根様に描画された3尺四方の場所。
      中央部の2本の線は樋:排水溝を、そこに向う左右の斜線は流しの底部になる板張り(上記の松 六分板 上小節)を示しているのでしょう。
      しかし、実際の樋の位置など、詳細が分りません。修理工事報告書に実例の報告がないか探しましたが、見つかりません。どなたかご教示を!
          
 下流しの上部に無双窓(むそう まど)を設ける(上図の下流しの右手:西面がそれと思われます)。
   註 無双窓 : 無双連子(むそう れんじ)。連子(間隔が一定の格子をいう)を造りつけにした内側に、同形の連子の引戸を設けたもの。
             一方に引けば一面の板張りのようになり、他方に引けば普通の連子に見える。(いずれも「広辞苑」より)
 無双窓は、明き3尺、高さ1尺5寸、仕様は以下による。
   註 原文には明き9尺とありますが、平面図から明き3尺と判断しました。
      また、原文の「明き九尺高さ一尺五寸下は鴨居上端に溝付、仝鴨居・・・」は、他の一般の鴨居位置に無双窓の敷居を設ける意と解しました。
   鴨居 : 松 成・丈1寸2分×幅3寸2分 削り仕上げ 溝付。
   連子 : 杉 本六分板 無節 を幅2寸5分に曳割り削り仕上げ、明き2寸間に打付ける。
   引戸 : 連子と同じ板の上下に縁を取付ける。
        縁は 杉 中貫 無節 を曳割り削り仕上げ、格子板の木口より、(板一枚に対し)正1寸5分釘2本ずつ打付け作製し、辷りの好いように取付ける。

    長くなりましたが、今回分はここまで。引き続き、各部の詳細が記されます。

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用語の確認チェックに時間がかかりました。
これまで、結構「いいかげんな」理解ですましていたんだなァ、と思うことがたくさんあり、大変「復習」になりました。

次回分の用意にも、少々時間をいただきます。

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